政府は今年末をめどに「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を改訂する。前回の改訂から5年。この間に北朝鮮は核・ミサイルの開発を大幅に前進させた。トランプ政権が誕生し、米国の安全保障政策は内向きの度合いを強める。
改訂に当たって我々は何を考えるべきなのか。小野寺五典・前防衛相に聞いた。同氏は「ロシアのクリミア併合を機に戦い方が変わった」ことへの対応を重視する。
(聞き手 森 永輔)
今なぜ防衛大綱を改定するのでしょう。小野寺さんが防衛相を務めていた今年1月に見直す方針を表明しました。2013年の前回の改訂から、まだ5年しかたっていません。大綱は10年の期間を念頭に、防衛力のあり方と自衛隊が保有する防衛力の水準を定めるものですね。
小野寺:前回の改訂の時も、私が防衛相を務めていました。あの時と比べて、日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化しました。一つは、北朝鮮が核ミサイルの能力を著しく増強したこと。昨年9月に実施した実験の爆発規模は、広島に投下された原爆の10倍以上の威力があったと推定されています。弾道ミサイルも日本を射程に収めるものを400発配備しているといわれています。

衆院議員。1983年に東京水産大学を卒業、1993年に東京大学大学院法学政治学研究科を修了。宮城県庁、松下政経塾、東北福祉大学助教授などを経て、1997年、衆院議員に初当選。以降、外務大臣政務官、外務副大臣、防衛大臣などを歴任。現在は衆院外務委員会の筆頭理事を務める(写真:新関雅士)
もう一つは、戦い方が大きく変わったことです。ロシアが2014年、ウクライナに軍事介入し、クリミアを併合。この時に各国はサイバー戦や電磁波戦の重要性を目の当たりにしました。ロシア軍の動きを検証したところ、次の段取りだったことが判明しました。衛星通信やレーダーを遮断したり、重要インフラにサイバー攻撃を仕掛けたりして社会をかく乱。こうしてウクライナ側の“目”をふさいだうえで、軍事攻撃を仕掛ける
いわゆるハイブリッド戦を展開したわけですね。
小野寺:はい。このような時代になったことを踏まえて、大綱の見直しを決めました。
ミサイル防衛を機能させるにも宇宙やサイバー対応が大事
北朝鮮による核ミサイルの能力増強が理由なら、ミサイル防衛システムが改定の中心になるのですか。
小野寺:ミサイル防衛そのものについては、すでにいろいろな施策を進めています。
イージスアショアの導入がすでに決まっていますね。
小野寺:ええ。しかし、ミサイル防衛システムを十分に生かすためには、宇宙を回る衛星で必要な情報を収集したり、それをネットワークを介して適切に受け取ったりする仕組みが欠かせません。したがって宇宙、サイバー、電磁波戦といった新たなドメインを横断的に防衛する能力を構築する必要があります。戦い方が変わったことに合わせて、守り方も変える必要があるのです。
では、大綱の中心はクロスドメインになりますか。
小野寺:重要な要素として、これから議論していくことになると思います。精密誘導の能力が向上しています。相手国が攻撃対象とする施設を守るためには、相手の情報通信を遮断する電磁波装備などが必要になります。重要インフラに対するサイバー攻撃を防ぐ手立ても必要です。こうしたものを充実させていくことが議論の対象になるでしょう。
小野寺さんは敵基地攻撃能力の導入に賛成の立場ですね。
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