安全保障を侵す技術を守る非公開特許

順番におうかがいします。重要技術流出防止法とはどんな法律ですか。

玉井:国として技術を管理し、諸外国への流出を防止する目的の法律です。例えば、重要技術に指定された技術に関する情報にはセキュリティー・クリアランス制度によって適格性保証を得た人だけがアクセスできると定める。重要技術の情報は、一定以上のセキュリティー機能を持つサーバーに保存することを義務付ける。米国はもちろん、ドイツ、中国、韓国などが既に運用しています。

 このほか、一定の論文の公開・非公開を管理する、非公開特許制度の導入などを盛り込むことが考えられます。

国が論文の公開・非公開を管理するとなると、大きな議論を呼びそうですね。

玉井:はい。論文発表まで規制するのは、米国でも極めて例外的な場合です。「表現の自由」を尊重するのが、基本的な価値ですから。ただ、重要技術は具体的なモノや人に結びついていることも多いわけです。かつて東芝機械事件というのがありました。あのときに問題になったようなことがまた起これば、その防止が具体的に必要になるでしょう。

非公開特許とはどのような制度ですか。

玉井:米国では次のように運用しています。まず、特許庁が受け付けた特許出願すべてをチェックし、国の安全保障を維持する観点から公開が不適切と思われる案件があれば、国防総省やエネルギー省に回す。担当省庁が公開不適切と判断すると、特許庁は出願を非公開とします。出願企業はこの技術を発表することも許されません。

 一方、特許庁はこの出願の審査を進めます。特許に値すると認めた場合は、出願者に通知し、補償金を支払います。特許になっていればライセンス料収入などが見込めるわけですから、それを補填する意味合いです。

特許には、発明者に名誉を与える意味もあります。この名誉の扱いはどうなるのでしょう。

玉井:残念ながら非公開指定が続く限りは実現しません。ただし、担当省庁が非公開の指定を解除すれば、通常の特許と同様の扱いになります。

非公開特許制度の導入は難事業になりそうですね。まず、ある出願が安全保障に関わるかどうか判断する担当者のセンスが問われる。

玉井:そうですね。米国の運用を見ると、ものすごくコストがかかることは明らかです。

補償金の算定も難しい。

玉井:得られたであろう機会損失を算定する必要があります。米国では補償金の額をめぐって訴訟も起きています。

米国では補償金の財源をどう賄っているのですか。

玉井:国防総省など非公開を指定した部署が負担しています。この額もばかにできないものになりますね。

発明を公開できないとなると、技術者からの強い反発が予想されます。

玉井:おっしゃるとおりです。私も、このような制度を導入しないで済むなら、それに越したことはないと思います。しかし、それを許さない状況になることも、覚悟せねばならない。せめてドイツくらいの仕組みを整えておかないと、日本企業が先日のファーウェイやZTEみたいな扱いをされかねない。米中新冷戦はどこまで進むかわからない。少なくとも準備は要る。私たちは、そういう危機感を持っています。