軍用技術と民生技術の垣根がなくなった

 このITは「純粋な民生」にとどめることができません。インターネットは元々、核攻撃を受けても寸断されない通信網を目指したものです。AI(人工知能)も軍事にどんどん応用されています。

 ITが国の安全保障を左右する時代に突入しているのです。特に米国は安全保障の観点からITを重視している。

 米国では、軍事技術として開発した技術を民生品に応用する「スピンオフ」が数多くあります。米政府はこのスピンオフ技術について、安全保障に負の影響を与えることがないよう、秘密の保持については、民間企業への圧力がもともと強い。

 特に、こうした技術が「中国に流出しては困る」という姿勢を米国は強めています。トランプ政権はこの面での行動が顕著ですが、米国全体の潮流と見るべきです。中国の通信機器メーカーであるファーウェイ(華為技術)やZTEを標的にした制裁はその典型例ですね。

 日本企業も、対岸の火事ですむとは限りません。NECのパソコン事業を統括する会社は中国レノボグループに売却されました。シャープは台湾企業ですが、その工場の多くは中国大陸にあります。この状況はトランプ政権がどう評価し、どのような対応を取るか、安穏としているわけにはいかないのです。

 さらに、軍用と民生の境がなくなっているのはITだけではありません。地震の研究は日本では純粋な平和目的で行われていますが、米国では、自然現象の地震と地下核実験による振動を見分けるための検証が主目的でした。介護用のパワーアシストスーツは民生でしょうか。米国では、“ガンダム”を作るために、同様の技術を研究しているのです。

技術安全保障の司令塔として国家技術安全保障会議を設置

お話しいただいた認識に基づき、防衛大綱に「国家技術安全保障会議」の設置を盛り込むよう提案されました。

玉井:国家技術安全保障会議は内閣官房に設置し、首相が議長を務める。主な役割は、今後5年間に取り組む技術政策を立案すること。私たちは技術政策の柱として、今の時点では、重要技術流出防止法、非公開特許、セキュリティー・クリアランス制度などの導入を挙げています。

 内閣官房にすでに「総合科学技術・イノベーション会議」が設置されています。これと役割がかぶるとの批判があるかもしれません。こちらが「人類の公共財としての技術」を念頭に置いているのに対して、私たちが提案する国家技術安全保障会議は「日本の安全保障」「日本の納税者」を第一に考えます。「人類」のことを考えて行動するのは素晴らしいことです。しかし、それでやっていける時代は終わりつつあるのです。