政府は今年末をめどに「防衛計画の大綱」*1と「中期防衛力整備計画」を改訂する。前回の改訂から5年。この間に北朝鮮は核・ミサイルの開発を大幅に前進させた。トランプ政権が誕生し、米国の安全保障政策は内向きの度合いを強める。

 改訂に当たって我々は何を考えるべきなのか。東京大学の玉井克哉教授は「いまこそ技術安全保障を考える必要がある。国の安全保障と技術競争力は不可分のものとなった」と訴える。同氏は特許を中心とする知的財産権の研究者だ。(聞き手は 森 永輔)

玉井さんが座長を務める技術安全保障研究会が10月10日、「諸外国並みの技術安全保障体制の構築を」という提言を発表しました。この中で「技術安全保障」を確立すべきと主張しています。「国の技術力が、産業の国際競争力のみならず、一国の安全保障に直結している」。この「二つの保護法益を不可分一体として(中略)、国の政策立案や法執行についても、一体としての取り組みを強化すべき」と。

 「技術安全保障」という用語を初めて聞きました。

*1:防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準を規定(おおむね10年程度の期間を念頭)(防衛白書 平成29年版)

技術は産業競争力と安全保障に直結する

玉井:はい。私たちが新しく作った言葉です。食料安全保障とかエネルギー安全保障という言葉がありますよね。国は、これらを守り、国民に安定的に供給しなければならない。技術も同様に重要で、しっかり守らなければならないと考えています。

玉井克哉(たまい・かつや)
東京大学先端科学技術研究センター教授。専門は行政法・知的財産法。1983年、東京大学法学部卒業。90年に東京大学法学部助教授、95年に東京大学先端科学技術研究センター助教授、97年から現職。(写真:佐藤兼永、以下同)

 日本はこれまで技術、それにまつわる知的財産権を特許制度で守ってきました。しかし、せっかく開発した技術が諸外国に流出し、日本の競争力を維持・向上させることが難しくなっている。この状況を改める取り組みが必要です。

 特許制度は技術の「公開」が前提になっています。公開された技術を共有財産とすることで、その上にさらなる進歩を積み上げ、人類の発展に寄与する──というフレームワークです。発明者には、技術を公開する代償として20年間の独占権を認める。

 日本はこのフレームワークを生真面目に信じて、特許中心に技術の保護と推進を図ってきました。特許庁も、実に生真面目に仕事をしている。しかし、時代が変わりました。

 日本では年に30万件強の特許が出願されています。中国は専門チームを整え、これらを解析しているといわれる。ちょっとだけ変更を加えただけで別の特許を取得する例も多い。製造方法に関する特許は、まねをされてもわからない。特許による独占権が“絵に描いた餅”になってしまい、日本企業は公開するだけ損しているのではないか。そういう声が強いのです。

 特許以外に、営業秘密というものもあります。特許出願などによって公開せず、企業が自社の利益のために秘密として保持するものです。だが、日本企業はお人好しで、これがだだ漏れになってきた。新日鐵住金や東芝メモリの極めて重要な技術が韓国企業に漏れていたことが相次いで発覚しましたが、おそらく氷山の一角です。どうやら、日本の技術だけが丸裸になっている。この状況は産業競争力の観点から問題ではないでしょうか。放置しておくわけにはいきません。

 加えて、技術の在り方が変わってきています。IT(情報技術)が進化して、IT産業のみならず、産業全体の動向を左右する存在になりました。医薬品の開発でも、実験の代わりにITを駆使したシミュレーションが大きな役割を果たすようになった。ヒトゲノムの解析は2000年には10年・4000億円かかっていたものが、今は3時間・5万円で実行できます。このためテーラーメイドの医療も実現可能になりました。