防衛省から漏れ伝わってくる情報によると、新たな大綱で以上の3点に具体的に言及する気はないようです。憲法にかかわる議論が再燃するのを恐れているのではないでしょうか。来年は統一地方選挙と参院選挙が控えています。

イージス・アショアは見直しを

これまで触れていただいた3点について順に伺います。福山さんは敵基地攻撃能力の導入をどう思いますか。

福山:私は反対です。“コボコ”ですから。

 現在は米国が十分な矛の能力を持っており、抑止力が働いています。ゆえに日本は盾の役割に徹する。盾を充実させ、米国が矛に専念できる状態を作ることが重要です。

 そもそも日本は敵基地攻撃に必要な制空権を確保する能力も、北朝鮮のミサイル発射基地を探し出す能力や衛星も持っていません。

 米国の矛の能力に依存すべきではない、という議論があります。その立場に立つならば、米国が日本に、どのような矛の機能を求めているのかを明らかにし議論すべきでしょう。さらに、日本が矛の機能を持つようになれば、集団的自衛権の行使は「限定的」ではすまなくなるでしょう。それでよいのでしょうか。

 さらに、すでに保有している装備の拡充・入れ替えと敵基地攻撃能力の導入のどちらを優先することが最適なのか検証する必要があります。盾の装備が不足している中で、矛の能力を部分的に整えたところで、日本の安全を担保することができるでしょうか。

イージス・アショアの導入はいかがですか。

福山:立ち止まって考え直す時期だと思います。北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高かった1月の時点までは「否定しない」という立場を取っていましたが。

 地域住民の健康を保証し理解を得ることが先決ですね。候補地の一つ、むつみ演習場がある山口県阿武(あぶ)町の花田憲彦町長が9月20日に反対を表明しました。

 もう一つの候補地である秋田市の新屋演習場はまったくの街中にあります。イージス・アショアのレーダーが発する強い電波が住民に被害を与えないか強い懸念があります。

 さらに時間の問題があります。イージス・アショアを稼働させるのに6年かかるといわれています。これだけの時間をかけて間に合うのでしょうか。その前に北朝鮮がCVIDを実現し、平和条約が締結されているかもしれません。

 繰り返しになりますが、既存の装備の拡充、メンテナンスにも影響します。イージス・アショアを導入するため、いくつかの装備の導入が滞るようです。例えば概算要求では、P-1哨戒機の導入が予定よりも減ると指摘されています。

盾の役割をきっちり果たし米軍の支援を担保する

日本は盾の役割をきちんと果たせるようにすべきとのお話です。そのための装備で欠けているのは何ですか。対北朝鮮ではどうでしょう。

福山:それを評価するのは難しいですね。政権はいつも「万全です」「万全にやります」と言ってきました。民主党政権も例外ではありません。しかし、現実には万全ではなかったわけです。現にイージス・アショアを導入するわけですから。

 ここで大事なのは、イージス・アショアを導入するのが正しい選択なのかを議論することです。例えばイージス艦の数を増やすほうが合理的なのかもしれません。もしくは地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)*5が正しい選択なのかもしれません。こうした議論がなされていないことが問題ではないでしょうか。

*5:イージス・アショアはミッドコースを飛行中のICBMを迎撃する。ミッドコースはロケットがエンジンの燃焼を終了し、宇宙空間を慣性飛行している状態。この後、大気圏へ再突入する。一方、THAADは地上に落下するターミナルフェーズにおける高度の高いところで撃ち落とすことを想定している。低い高度は空自が持つパトリオットミサイルが対応する。

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