なぜ改訂する必要があるのか、防衛省に問い合わせてみました。しかし、説明を聞いてもまったく分かりませんでした。「厳しい安全保障環境」「宇宙・サイバー領域への対応」「日米同盟およびインド、豪州との関係強化」などが理由とのこと。2010年時点と何ら変わりはありません。

 念のため申し上げると、私は大綱を改訂してはいけないといっているのではありません。改訂するならば、その意義を明確にすべきだし、適切なタイミングで実施すべきといいたいのです。

安倍政権がやりたいと考えているであろう3つのこと

福山:安倍政権のこれまでの行動から推し量ると、新たな防衛大綱に盛り込みたいのは次の3つと考えられます。①集団的自衛権の限定行使に向け自衛隊の活動領域を広げるとともにそのための部隊と装備を整えること、②敵基地攻撃能力の導入、③イージス・アショアの導入です。それならそうと明らかにし、これらがなぜ必要なのか理由を説明すべきでしょう。

 集団的自衛権の限定行使について、米国は日本に何を求めているのでしょうか。一切、明らかになっていません。

 安保法制を審議する過程で、安倍政権は集団的自衛権を限定行使するケースは二つしかないと説明しました。一つは、イランがホルムズ海峡を機雷で封鎖する事態における掃海。もう一つは、北朝鮮が韓国に侵攻する朝鮮半島有事において、邦人輸送やミサイル防衛に当たる米艦を防護する事態です。赤ちゃんを抱いた女性を描いたパネルが話題になりました。このどちらも立法事実としてあり得ないことを政府は認めざるを得なくなりました。それなのに、なぜ、強行採決までして集団的自衛権の限定行使を可能にしたのか。

 安倍首相は、憲法の要請である「専守防衛」を守るといいます。しかし、集団的自衛権の限定行使容認と専守防衛が整合するのでしょうか。

 敵基地攻撃能力の導入は、日米同盟における両国の役割--日本は「盾」、米国は「矛」--を根本的に変えるものです。敵基地攻撃能力は“コボコ”(小矛)ですから。この点について日米がどう整理し、米国が日本に何を求めているのか、明らかではありません。

 また、どの程度のコボコをやるかについて、国民の合意は全くありません。さらに憲法との関係で見た場合、これが「必要最小限度の実力」の範囲にとどまるのか明確でない。軍事的効用の大きさも分かりません。

 矛の役割を論じる前に、そもそもの役割である盾の役割が十分なのか考えるべきではないでしょうか。これが不十分で米国の支援を受けることになれば、米国の矛の能力を削ぐことにつながります。

 イージス・アショアについて、防衛省は概算要求で2352億円(2基分)を計上しました。これに対する不安の声が自衛隊の現場から私の元に届いています。既存装備の増強やメンテナンスに充てる予算が削られ支障をきたすのではないか、と。この不安にどう応えるのでしょうか。

 イージス・アショアの導入はFMS*4になります。導入が進むにつれて必要な予算が拡大する懸念があります。ひと頃は1基800億円といわれていましたが、すでに2基で2000億円超です。導入する迎撃ミサイルの数を増やせば、その分、必要な予算も増えていきます。

*4:有償海外援助 。Foreign Military Salesの略。米国が採用する武器輸出管理制度の1つで、武器輸出管理法に基づく。購入する国の政府と米国政府が直接契約を結ぶ。米国が主導権を取るのが特徴。価格は米国政府が決める。納期が遅れることも多い。最新の装備品などは、FMSによる取引しか認めない場合がほとんどだ。

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