しかし、北東アジアの環境はその後、大きく変わっています。北朝鮮が平昌五輪に参加。その後、南北首脳会談、米朝首脳会談と続き、融和と対話のプロセスに入りました。私も気を緩めてよいと考えているわけではありません。「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID=Complete, Verifiable, Irreversible Denuclearization)がスムーズに進むとは思えない状況です。制裁も警戒も緩めてはならないとの立場です。

とはいえ、これまでの20年間において、考えられないような変化が起きたことは認めざるを得ません。南北や米朝など、幾度も首脳会談が開かれました。南北は2035年のオリンピック共同開催を推進することまで合意しました。北朝鮮が姿勢を改める兆しがある今、1月時点の認識を見直すことなく大綱の改訂を進めるのは、いささか官僚的。日本が危機をあおっていると、国際社会からみなされかねません。この情勢を改めて評価する必要があるでしょう。
それなのに、自民党は5月、「新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定に向けた提言」を発表、8月には政府が「安全保障と防衛力に関する懇談会」を開始。評価を改めることなく、改訂を進めようとしています。
このタイミングで重要なのは、CVIDの実現と北朝鮮が求める体制保証が並行して進むよう、日米韓が協力して外交を進めることです。CVIDだけを先行して進めることは歓迎ですが、北朝鮮はなかなか了解しないうえに、中国やロシアの協力が得られないので難しいでしょう。一方で、体制保証だけが先行するのを見逃すわけにはいきません。拉致問題を抱える日本は米韓以上に難しいかじ取りを求められます。
民主党政権時代から安保情勢は変わっていない
さらに、大きくとらえれば、対中国や対ロシアを含めて北東アジアの安全保障環境は、私たちが民主党政権で22大綱(「22」は平成22年を意味する。2010年に閣議決定)を定めた時から変わっていません。22大綱ですでに、北朝鮮による挑発行動、中国の軍事力の急速な拡大と活動の活発化、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善により脅威の発生を予防する、といったことに言及しています。「海洋、宇宙、サイバー空間の安定的利用に対するリスクが新たな課題となってきている」点も2010年時点で指摘していました。
振り返れば、自民党政権が策定した現行の25大綱(2013年に閣議決定)も22大綱の延長線上のようなものでした。25大綱が定める「統合機動防衛力」は22大綱が定めた「動的防衛力」*3の焼き直しのようなものです。意味があるとすれば、25大綱の決定と並行して、国家安全保障戦略を定め、国家安全保障会議を設置したことでしょう。安倍首相がやりたいと考えていたことをやった、という国内政治上の意味は理解できます。しかし、防衛戦略としてどれだけの価値があったかは疑問です。
あれから5年で再び改訂を目指す。改訂するならば、現行の大綱の評価と検証をまずすべきではないでしょうか。現行の大綱は「留意事項」として以下を定めています。
1本大綱に定める防衛力の在り方は、おおむね10年程度の期間を念頭に置いたものであり、各種施策・計画の実施過程を通じ、国家安全保障会議において定期的に体系的な評価を行うとともに、統合運用を踏まえた能力評価に基づく検証も実施しつつ、適時・適切にこれを発展させていきながら、円滑・迅速・的確な移行を推進する。
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