孫崎:まったく意味がありません。北朝鮮は日本を攻撃できるミサイルを200~300発保有しているといわれています。日本が敵基地攻撃能力を持つならば、これらを同時にすべて攻撃できる高い能力を持つ必要があります。漏れが出れば報復されますから。その高い能力を整えることができるでしょうか。

 加えて、日本はこれらのミサイルの発射基地をすべて見つけ出す能力を持っていないのです。この状態で、敵基地を攻撃する装備だけを整えてもナンセンスでしょう。

関連して、イージス・アショアは有効でしょうか。地上配備型の新たな迎撃ミサイルシステムです。政府は2017年12月に導入を決定しました。

孫崎:こちらも役に立つとは思えません。着弾地が事前に明らかになっているのであれば、北朝鮮が発射したミサイルの軌道を計算して迎撃ポイントを推定することができるでしょう。しかし、どこに行くのか分からないミサイルの軌道を瞬時に計算できるとは思えません。

自衛隊が耐えられなくなればゲリラ戦も

自主防衛力を高めるといってもできることは限られていますね。

孫崎:そうなのです。軍事力だけで国を守ることはできません。そこで重要になるのが2つめの外交です。軍事力はかつて定めていた基盤的防衛力レベルに抑え、その代わり、外交力を発揮する。

基盤的防衛力は限定的・小規模な侵略に独力で一定期間耐える力――ですね。1976年に防衛大綱を初めて定めた時に盛り込まれた概念です。冷静時代は核兵器による抑止が働いており、米ソが本格的な戦争を起こすことはないという前提でした。

 日本の現行の防衛戦略は、自衛隊が一定期間耐えている間に米軍が来援し、相手国を攻撃することで戦争を終結させる――というのが基本構想になっています。日本は「盾」、米国は「矛」の役割分担ですね。しかし、お話の前提は「米軍は来援しない」です。自衛隊が耐えられなくなった時、どうすればよいのでしょう。

孫崎:あきらめることなく、長期にわたって市民が抵抗することです。ゲリラ戦を展開することだって、テロを実行することだってできるでしょう。どれほど強大な軍事力を持つ国であれ、別の国を軍事力で制圧し、そこに駐在し続けることはできません。米国でさえ、イラクやアフガニスタンに居続けることはできませんでした。

金体制を保証、尖閣諸島は棚上げする

外交力はどのように発揮しますか。

孫崎:最も重要なのは、攻められる理由を作らないことです。北朝鮮に対しては、その指導者の安全を侵さない、体制の転換を図らない姿勢を明らかにすることです。それでも北朝鮮が日本を攻撃すれば国際社会が許しません。北朝鮮は存続できなくなります。こうした国際社会の雰囲気を作るのも外交力の一環です。

日本がそのような姿勢を示しても、北朝鮮は在日米軍の基地を攻撃目標にするのでは。

孫崎:在日米軍の基地にそれだけの価値はなくなっていると思います。大陸間弾道ミサイルが開発され、米本土からでも北朝鮮を核攻撃できるようになりました。在日米軍の基地を攻撃しても、北朝鮮が自らの安全を高めることはできません。

中国との間ではどのような外交をすべきですか。

孫崎:日本と中国が軍事的な対立に至る要因は尖閣諸島しかありません。これを棚上げすればよいのです。

 ここで参考になるのは、1975年および2000年に発効した日中漁業協定です。尖閣諸島周辺の海域では、「相手国民に対して、漁業に関する自国の関連法令を適用しない」ことで合意しました。日中それぞれの法執行機関が、相手国の漁船と接触する事態を生じさせないことで、漁業を発端とする紛争が起きないようにしたのです。

 先人たちが知恵をしぼった賢い仕組みです。同様の知恵をわれわれも生み出していくべきではないでしょうか。

 ドイツにも学ぶべき点があります。ドイツは第2次世界大戦に敗れ、莫大な領土を失いました。これを得たのは当時のソ連です。両国が1955年に外交関係を樹立するにあたり、アデナウアー独首相(当時)は「国境の決定は、平和条約の完成まで停止される」と表明しました。すなわち、棚上げですね。

 アデナウアーはこの時点で協議してもドイツに有利に展開することはないと判断し、領土問題を後世に託し、国交回復という実利を優先したのです。北方領土を取り戻すために平和条約の交渉を進めようとする日本とは発想が異なります。

 尖閣諸島をめぐる問題を棚上げすれば、経済的に見ても、中国が日本と戦争する意味はありません。さらなる経済大国を目指す中国は日本の市場および日本企業が持つ技術を欲しています。戦争になれば、これらを手に入れることができなくなってしまう。戦争しなくても、日本企業を買うだけの経済力を彼らはすでに持っているのです。

 これまでにお話ししたようなシナリオも想定し、比較・検討したうえで、日本の防衛政策を考え、防衛大綱を改訂すべきではないでしょうか。