孫崎:そうですね。こうした生き残る核兵器がある以上、米国が日本に核の傘を提供することはできないのです。

第3は、東シナ海から南シナ海へと至る海域で、米国が通常兵器で参戦することも難しくなっていることです。米シンクタンクのランド研究所が「台湾(もしくは尖閣諸島)をめぐって米中が戦争すれば米国が負ける可能性がある」とのレポートを発表しました。
これによると、中国は沿岸におよそ1200発の短中距離弾道ミサイルとクルーズミサイルを配備している。しかも、その命中精度は非常に高くなっています。中国はこれらを使って、沖縄・嘉手納にある米空軍の基地を攻撃し、滑走路を使用不能にするでしょう。そうなると、制空権を確保するための米軍の空軍能力は著しく低減します。横田や三沢の基地から飛ばすこともできるでしょうが、途中で給油する必要があります。
米空母も、これらのミサイルを恐れて近づくことができません。
中国が進めるA2AD戦略ですね*3。
孫崎:そして第4は、米国にとって中国がアジアで最も重要なパートナーとなっている点です。近い将来、中国のGDP(国内総生産)が世界最大になることが予想されています。その巨大な市場を米国が敵に回すとは思えません。
ドナルド・トランプ大統領が中国に貿易戦争を仕掛けています。中国からの輸入品に関税をかけたり、中国が進める「製造2025」を妨げる要求を出したり。しかし、これは短期的なものにとどまるでしょう。10年、20年という長い目で見れば、米国が中国を重視するのは変わりません。
ちなみに、米国家安全保障会議(NSC)でアジア部長を務めたマイケル・グリーン氏は2002年にものした論文「力のバランス」で、「中国のGDPが日本のそれを追い越せば、ワシントンにとって日米同盟の重要性が劇的に低下することは考えられないことではない」と指摘しています。同氏はその理由として、米中が先ほど説明したMADの状態にあることと、中国が多額の外貨準備を保有していることを挙げています。
中国は依然として、多額の米国債を保有していますね。
敵地攻撃能力はナンセンス
米国が日本の防衛のために来援しないとすると、日本はどうするべきなのでしょうか。
孫崎:できること、やらなければならないことが2つあります。1つは、自分の国は自分で守る、自主防衛力を高めること。もう一つは外交力を生かすことです。
「日米同盟に頼ることなく、自分の国は自分で守る」というのは、新しい考えでも突飛なものでもありません。東條・小磯・鳩山一郎内閣で外相を務めた重光葵氏は1953年、「国民は祖国を自分の力で守る気概がなければならない」と発言しています。日米安保条約を改訂した親米派とみられている岸信介氏でさえ「他国の軍隊を国内に駐屯せしめて其の力に依って独立を維持するというが如きは真の独立国の姿ではない」と回顧録に記しています。
1969年には当時の外務省中枢が「我が国の外交政策大綱」をまとめ、その中で以下を掲げました。
- わが国国土の安全については、核抑止力及び西太平洋における大規模の機動的海空攻撃及び補給力のみを米国に依存し、他は原則としてわが自衛力をもってことにあたるを目途とする
- 在日米軍基地は逐次縮小・整理するが、原則として自衛隊がこれを引き継ぐ
さらに日米ガイドライン*4も「自衛隊は、島嶼に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除するための作戦を主体的に実施する」と記述しています。米軍はあくまで「自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」存在なのです。
自主防衛力を高める手段はいくつか考えられます。本格的な戦争に遠い想定から順に伺います。 まず領域警備法の制定について。尖閣諸島を日本が自分で守るためには、グレーゾーン*5をなくし対応するための法整備が必要ではないですか。
孫崎:私はそうは思いません。尖閣諸島周辺で起こる事態に日本が主権を行使して対応すれば、中国も同様の行動に出ます。これは危険な事態を招きかねません。
北朝鮮によるミサイル攻撃に対する自主防衛力を高めるため、敵基地攻撃能力*6を保有すべきという議論があります。これはどう評価しますか。
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