米軍が日本の防衛に駆けつけない4つの理由

孫崎さんは、防衛大綱を改訂するに当たって、新たに盛り込むべき点や修正すべき点、削る点として何が重要とお考えですか。

孫崎:現行の防衛大綱は現在書かれていること以外の選択肢を挙げていない点が問題です。政府が選択した防衛政策が正しいことを証明するためにも、他の選択肢を提示し、比較検討する必要があるのではないでしょうか。

例えばどんな選択肢がありますか。

孫崎:日米同盟が機能せず、日本が他国から攻撃を受けても米国が来援しない状況です。私はこの可能性が極めて高いと考えています。

米国の首脳が繰り返し、「尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲内にある」と発言しているのでは。2010年に尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の監視船に衝突する事件が起きました。この時、ヒラリー・クリントン国務長官(当時)が尖閣諸島が適用範囲であることを認めました。2012年に日本政府が魚釣島を購入し、中国が反発した際には、カート・キャンベル国務次官補(同)が同様の発言をしています。2014年にはバラク・オバマ大統領(同)が安倍首相との首脳会談の後、同趣旨の発言をしました。

孫崎:おっしゃる通りです。

 米国が助けに来ない理由は大きく4つあります。米軍が来援しないと考える理由の第1がその安保条約の規定です。米国が日本を防衛すると定めたとされる第五条を見てください。

第五条
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

 「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」とあります。米憲法は、宣戦布告の権限を議会に与えています。政府ではありません。したがって、時の米国政府は同条に則って日本を防衛すべく議会に諮るかもしれませんが、そのあとの保証はありません。

 議会は、米国人の若者の血を尖閣諸島防衛のために流させることを決して許容しないのではないでしょうか。つまり、安保条約の適用範囲にあることと、尖閣諸島を防衛することとは別の話なのです。米政権は安保条約を適用するとは言っていますが、軍事行動を起こすとは言っていません。

米国は核の傘を提供しない

 第2は米国が中国に対して核兵器を使用できないことです。米国と中国は今、「相互確証破壊」と呼ばれる状態にあります。確証破壊というのは、敵の第1撃を受けた後も、残った戦力で相手国の人口の20~25%に致命傷を与え、工業力の2分の1から3分の2を破壊する力を維持できていれば、相手国は先制攻撃を仕掛けられない、というもの。米国のロバート・マクナマラ国防長官が1960年に核戦争を抑止する戦略として提唱しました。

 この確証破壊を2つの国が相互に取れる状態が相互確証破壊です。敵対する両国はともに、核による先制攻撃ができません。

 中国と相互確証破壊の状態にある米国が、尖閣諸島を防衛するために核兵器を使用すれば、それは中国に対する核先制攻撃となります。中国が核で報復するため、米国も多大な被害を受けることになる。巷間、「尖閣諸島のためにニューヨークを犠牲にはできない」と言われる状態が生じるわけです。

米国は核兵器を搭載する原子力潜水艦を太平洋のあちこちに遊弋(ゆうよく)させているといいます。他方、中国も南シナ海に、核ミサイル搭載潜水艦を2隻配備しているといわれる。どちらも海中を移動するため、その位置を捕捉しにくく、第1撃が実行されても“生き残る”可能性が大とされています。