政府は今年末をめどに「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を改訂する。前回の改訂から5年。この間に北朝鮮は核・ミサイルの開発を大幅に前進させた。トランプ政権が誕生し、米国の安全保障政策は内向きの度合いを強める。

 改訂に当たって我々は何を考えるべきなのか。外務省で国際情報局長や駐イラン大使を歴任した後、防衛大学校教授を務めた孫崎享氏は「米軍が来援しない事態も考えるべき」と訴える。

(聞き手 森 永輔)

核弾頭を搭載可能な米戦略爆撃機「B52」。北朝鮮を警戒するため飛来している(写真:ロイター/アフロ)

今回、「防衛計画の大綱」*1と「中期防衛力整備計画」*2を改訂するに当たって、孫崎さんが重視するのはどんな点ですか。

*1:防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準を規定(おおむね10年程度の期間を念頭)(防衛白書 平成29年版) *2:5年間の経費の総額と主要装備の整備数量を明示

孫崎:自民党が防衛大綱の改訂を発案した時と状況が変わってきました。その不整合をどのようなロジックで埋めるかに注目しています。

孫崎 享(まごさき・うける)
1943年生まれ。1966年東京大学を中退し外務省に入省。駐ウズベキスタン、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。その後、防衛大学校教授を務める。著書に『日米同盟の正体』『情報と外交』など。(写真:菊池くらげ、以下同)

 小野寺五典防衛相が今年1月に防衛大綱の改訂を表明した時、同相はその理由を「北朝鮮の核・ミサイル技術の進展への対応」としていました。しかし、6月に米朝首脳会談が実現し、当時とは状況が変わっています。非核化が進む様子はないものの、ミサイルの発射や核実験は行われていません。米国が北朝鮮に先制攻撃を仕掛ける可能性は大きく低下しました。

その流れを反映して、地上配備型のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」不要論が一部で出ていますね。

孫崎:そうですね。

 対中国でも状況が変わってきています。政府は島しょ部への攻撃への対処能力を高める方針を掲げていますが、中国の海洋進出をめぐる日中間の緊張も緩和する方向にあります。安倍晋三首相と習近平(シー・ジンピン)国家主席は9月にウラジオストクで会談した際、安倍首相が10月中旬に訪中することで合意しました。

 これらとは別に、新しい防衛大綱は国際貢献に対してこれまで以上に積極的な姿勢を打ち出すことになるでしょう。現行の防衛大綱が閣議決定されて以降の大きな変化として、安全保障法制が2016年3月に施行されたことがあります。

同法制によって、国連PKO(平和維持活動)ではない国際的な平和協力にも自衛隊が参加できるようになりました。その第一弾として、エジプト東部シナイ半島の停戦監視に司令部要員を派遣することが検討されています。

孫崎:憲法改正に関わる文言が加わるかどうかにも注目しています。安倍首相が9月20日、自民党総裁選に勝利し、憲法改正に取り組む意向を改めて表明しました。これに関連する文言が防衛大綱に盛り込まれることもあり得ると思います。

 今年は自然災害が相次ぎました。この機をとらえ「自衛隊の災害対応をよりスムーズにする」ことを口実に、緊急事態条項を憲法に加える提案が入るかもしれません。