①日本の自主防衛力に関する質問を続けます。領域警備法の必要性について伺います。尖閣諸島を日本が自分で守るためには、グレーゾーン*5をなくし対応するための法整備が必要ではないですか。

*5:自衛隊が出動すべき有事とは言えないが、警察や海上保安庁の装備では対応しきれない事態

柳澤:私は必要とは思いません。尖閣諸島を「力で守る」のは不可能だと思います。仮に取られても、1回や2回は取り返せるでしょう。しかし、相手だって、3回、4回と繰り返し取りに来ます。いつまでも終わることのない不毛なやりとりを続けるしかありません。

 警察権を行使する海上保安庁で対応できる部分(ホワイト)と、自衛隊が武力行使しなければ対応できない部分(ブラック)があり、この間に溝(グレー)がある。ここを自衛隊が遅滞なく対応できるようにする、つまりグレーをブラックにするのが領域警備法です。私はグレーゾーンをブラックにするのではなく、グレーをグレーのまま抑えることが大事だと考えます。それには、シームレスに対応するのではなく、政治が介入してシームをあえて作ることが必要です。

 領域警備法に賛成する人々は「海上保安庁で対抗できないケースには、自衛隊がシームレスに対応します。だから安心です」と主張しますが、私には言わせれば「だから心配」なのです。本来は、政治の力で、グレーの度合いを薄め、ホワイトに近づけるべく努力をすべき。

 そもそもの問題として、中国は尖閣諸島を領有しようと考えているでしょうか。私は彼らがそれを政治目的にしているとは思いません。事の起こりは、民主党政権が2012年に下手くそな国有化をして、中国のメンツをつぶしたことです。中国はつぶされたメンツを回復するため、日本の実効支配と同程度の実効支配を確立したいのでしょう。だから海上保安庁に相当する法執行機関である海警の艦船を派遣しているのです。「島を取り戻したい」というのとはちょっと異なると思います。

日本にステルス戦闘機は本当に必要か?

自主防衛力強化の一環として敵基地攻撃能力*6が議論の俎上に載る機会が増えてきました。柳澤さんは、これについてどう考えますか。

*6:北朝鮮が発射を意図する弾道ミサイルを最も高い確率で迎撃できるのは、発射台に設置されたとき、もしくは発射直後で飛行速度が遅い段階。このタイミングを突いて攻撃する能力のこと

柳澤:導入することになる長距離射程の巡航ミサイルは、化学兵器使用疑惑が生じた時にトランプ政権がシリアを攻撃した“あのミサイル”です。言葉どおりの「攻撃能力」。これを配備すれば、周辺国に脅威を与えることになってしまうのではないでしょうか。それは、相手に先制攻撃の口実を与えることにもなりかねない。

 敵基地攻撃能力を備えることで、日本を攻撃するミサイルを100%防ぐ効果があるならば議論する価値もあるでしょう。しかし、日本は相手のミサイル基地を探し出す能力を持っていません。価格対効果比で見てペイしません。

 けっきょく、気休めにしかならないのだと思います。繰り返しになりますが、相手がそうしたミサイルを使いたくなる動機を作らないことがより重要だと考えます。

同様に、F-X(次期戦闘機)はどのように進めるべきでしょう。現行の支援戦闘機「F2」の後継として、2030年をめどに導入することになっています。

柳澤:最新鋭のものを導入したいという現場の気持ちはわかりますが、やはり価格対効果比を考える必要があります。航空自衛隊の役割は日本の防空です。それを考えた時、最新のステルス性能が必要でしょうか。領空侵犯する意図を起こさせないためには、ステルス性がない飛行機で、こちらの存在を明示したほうが有効と考えることもできます。

 そのように考えると、高いステルス性を持ち、敵地に侵入して攻撃できる特性を有するF-35*7が本当に必要だったのでしょうか。日本の防衛産業の技術力を維持・向上させるべく日本企業の参画可能性を考えあわせれば、ユーロファイター・タイフーン*8の方が適していたかもしれません。

*7:米ロッキード・マーチンが開発したステルス戦闘機。航空自衛隊がF-4の後継として42機を導入する計画が決まっている。最初の4機を除く、38機が日本の工場で組み立てられる
*8:ユーロファイター社が開発した戦闘機。F-35、米ボーイングが開発したF/A-18Eとともに、F-4後継の候補に上った

 また防空という日本の用途に特化したものを作る前提であれば、日本が独自に開発する選択肢もあってよいと思います。

F-35を導入するのではなく、F-4を使い続ける選択肢もあったのでしょうか。

柳澤:それはさすがにないでしょう。F-4は60年代に登場したもの。いかんせん古すぎます。

日本製防衛装備に競争力はない

最後に防衛装備の海外移転についてお伺いします。政府は2013年12月に防衛装備移転三原則を策定し、一定の条件を満たせば防衛装備の海外移転が可能になりました。

柳澤:まず、安倍首相は大国外交を指向しているように見えます。新幹線、原発、そして兵器を外国に提供し、その国の根幹に関わるインフラを抑えることで日本の影響力を高めようとしている。しかし日本は大国ではありません。国民も大国指向を支持するでしょうか。私は、あまり大国ぶらないほうが良いと考えます。

 防衛装備の海外移転は、防衛産業を振興する産業政策としても効果があるとは思えません。日本が開発する防衛装備にそもそも競争力があるでしょうか。まず、価格が高い。それに見合う性能があるか。さらに、「実戦での使いやすさ」「戦場での壊れづらさ」が提供できません。「売れるモノ」にはなっていないと思います。

日本は戦後、戦争したことがないからですね。

柳澤:その通りです。日本と同じ境遇なり、同様の防衛構想を持つ国が、日本製装備を必要とするケースはあり得ると思いますが……。その市場は決して大きくなく、防衛産業の振興にもたいして役に立たないでしょう。民生品と異なり、中国に部品の製造を発注しコストを下げることもできません。