南西諸島防衛を担う常設の統合司令部を作れ
ここまでのお話を振り返ると、統合が果たす役割が大きいですね。提言では「中央及び南西における常設の司令部の設置など統合運用機能の強化」を推進するとあります。
若宮:南西諸島防衛に特化した常設の統合司令部があってもよいと考えています。
東日本大震災の時に、陸海空の3つの自衛隊を統合的に運用するため、JTF(Joint Task Forceの略。統合任務部隊)東北を臨時で設置したことがあります。あの時は、陸上自衛隊の君塚栄治・東北方面総監(当時)が指揮官となり、同氏の下に海上自衛隊の横須賀地方総監と航空自衛隊の航空総隊指令官が加わりました。
若宮:それの常設版を設置するイメージです。離島防衛の核となる水陸機動団(陸上自衛隊)が海上自衛隊の船で迅速に運ばれ、航空自衛隊による空からの支援を受けながら作戦を遂行することが容易になります。
これまで挙げていただいたものだけでも、やるべきことがたくさんあります。しかし、予算は限られている。提言では「NATO(北大西洋条約機構)が防衛費の対GDP比2%を達成することを目標としていることも参考にしつつ、必要かつ十分な予算を確保する」としています。
若宮:7月に欧州を訪問する機会がありました。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2025年までに防衛費を2%に拡大する努力を惜しまない意向でした。
私は「%」で考えるのは意味がないと考えています。GDPに対する比率で防衛費を考えると、経済が成長しない時には必要な施策を打てないことになります。そうではなく、本来必要なものは何かを精査し、必要なものは整えていくことが重要だと考えます。
ただし、無駄は省かなければなりません。友好国と共同で進められるものは一緒に開発・運用すべき。特に警戒・監視に使用する装備などは共同でやりやすいですね。国内の他省庁と協力することも考えなければなりません。例えば、自衛隊が必要とする衛星を、文部科学省やJAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げるロケットに混載してもらうなどが良い例です。
プロジェクトごとに官民協力体制の防衛企業を作る
提言は防衛装備の移転や防衛産業にも言及しています。防衛産業に関連して「国と企業の連携の一層の強化に資する新たな枠組みや組織の創設」とあります。若宮さんはこの分野に一家言お持ちですね。
若宮:はい。あくまで個人的な意見ですが、プロジェクト単位に半官半民の会社を作って防衛装備の開発・生産を進める仕組みができないかと問題提起をしています。国際的な競争力のある装備品を共同で生産することは産業振興にもつながります。
海外の防衛産業は、合併を繰り返し大規模化することで競争力を高めました。米国の航空機分野は、現在はノースロップ・グラマン、ボーイング、ロッキード・マーチンにほぼ集約されています。欧州でもエアバス、レオナルド、BAEなどに統合が進んでいます。一方、日本では、三菱重工業などの大企業が全体のごく一部として防衛装備関連の事業に取り組んでいる。この状態が競争力を削いでいるとして資本集約を求める意見があります。しかし、企業はそれぞれ文化が異なりますから私は難しいと考えております。
では、どうするか。プロジェクトごとに政府と企業が資金とヒトを出し合い開発・生産に取り組む会社を作るのです。各企業の壁を越えて技術者が集まり交流する中でシナジー効果が生まれます。似た技術を複数の企業が開発するダブりも防げます。
実際の開発を進めるに当たってはユニット化、モジュール化、ファミリー化が必要と副大臣時代から発言しております。典型例はドイツの装甲車「ボクサー」。8輪で走行するベース部分は共通。この上に載せるユニットが9つあり、これを替えることで兵員輸送車としても救急車としても、さらに戦車としても使うことができます。またF-35*3もA、B、Cとファミリー化の具体例と言えるでしょう。
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