提言には、「統合幕僚監部(統幕)に宇宙に関する運用部門を新設する」とあります。これは、どんなものですか。

若宮:「宇宙」は空の先にあるので、航空自衛隊の幕僚監部(空幕)が担当するのが適切と考えるかもしれません。しかし、宇宙で得た情報はすぐに陸・海・空の3自衛隊で共有し連携する必要があります。その差配をするには全体を統括する統幕が適切です。

 ただし宇宙に配置した衛星から地球上のターゲットを監視する機能そのものは現在、航空自衛隊が担っています。今後は、地球から宇宙の状態を監視する機能を高める必要もあると思います。いくつかの国がキラー衛星の開発を進めています。衛星を破壊しかねないデブリ(宇宙ゴミ)も監視しなければなりません。

 提言には盛り込んでいませんが、宇宙のルール作りに日本が積極的に参加する必要があります。例えばデブリを誰が処分するのか。デブリを発生させた国が処分すべきとのルールを作ろうとすれば、宇宙開発をこれまで積極的に展開してきた国が同意しないでしょう。こうした意見の調整が求められます。

サイバーのみの攻撃でも「武力攻撃事態」に

サイバー攻撃について「わが国に対するサイバー攻撃のみによる攻撃について、武力攻撃事態と認定して自衛権を発動することなど、論点整理する」とあります。さらに「サイバー攻撃の保有を検討する」と続く。これは、どのような事態を想定した提言ですか。

若宮:これには非常な困難を伴います。しかし、考えていかなければならない重要問題なので盛り込みました。

 まず、サイバー攻撃は誰が行ったのか特定するのがそもそも難しい。さらに、炎や煙など目に見える脅威がないまま被害が拡大する。そして信号が全面的に機能しなくなった、ATMでお金がおろせなくなった、原子力発電所が停止した、ガスも水も出ない--という深刻な事態に発展しかねない。この時に政府が手をこまねいているわけにはいきません。これまで想定してきた武力による破壊行為でなくても、自衛権を発動しなければならない事態が想定されます。今は、自衛隊がこれに対処するための法的根拠がありません。

 考えるべき問題は複雑です。例えば、技術の進歩により、局所的な電磁パルス攻撃が可能になっています。特定の建物や地域に限定して停電を起こしたり、電子機器を機能しなくしたりできます。これが官邸や自衛隊の施設だった場合--もちろん、あってはならないことですが--武力攻撃事態と認定することができるでしょうか。

通常の武力攻撃を受けた時でさえ「一国に対する組織的計画的な」ものでなければ自衛権を発動できません。いま言及された例を「一国に対する組織的計画的な」事態と認定できるかは難しいですね。

若宮:そうなのです。

 「攻撃能力」というのは、どのような行動を想定していますか。「攻撃能力」というと、基本政策である専守防衛との関係が気になります。

若宮:サイバー攻撃は100%防ぐことはできないものだと思います。それを止めるためには元を断つしかありません。ここでいう攻撃能力はそのためのものです。例えば相手国の戦闘機がミサイルを撃てないように操作するとか、操縦を困難にするとか。抑止力を高めることが本来の主旨となります。

 「攻撃」という表現だけを取り出すと懸念すべきものに聞こえるかもしれません。しかし、守りに最重点をおく基本政策を変える意図の記述ではありません。あくまで日本を攻撃すべくやってくるものを無力化にすることが「攻撃」の意味するところです。「反撃」という概念で捉えていただければと思います。

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