こうしたケースでは海上自衛隊のイージス艦は飛来する大多数のクルーズミサイルは撃墜できますが、その母機であるH-6Kの対処はできません。このため、H-6Kは繰り返し出撃して海上自衛隊の対潜部隊を攻撃することができるため、対潜部隊側は、どうしても発生する少数の撃ち漏らしミサイル攻撃により生ずる累積被害により、最後は作戦の継続が不可能となります。
この「ドカ貧」状態を回避するためには、母機であるH-6Kを撃ち落とす(母機対処)ための装備が必要になります。太平洋に航空自衛隊の基地はありませんので、ヘリ搭載型護衛艦とF-35Bを組み合わせることにより、母機対処が可能となり、海上自衛隊の対潜部隊の生存率が向上することとなります。
そのことにより来援する米軍部隊の安全が確保される結果、米軍全体としての敵国策源地に対する戦略打撃機能の能力は向上し、より充実した盾と矛の関係が構築されるのです。
一方、島嶼防衛という場面を想定しますと、例えば、現在調達が進んでいるF35Aと空中給油機の増加による、島嶼地域の防空能力の強化という別のオプションもあります。それ以外にもいくつかの選択肢はあると思いますが、それらのうちの有力なものとヘリ搭載型護衛艦とF-35Bの組み合わせ案との精緻な比較検討が必要だと考えます。その結果を反映した防衛力整備を進めるやり方が求められるのではないでしょうか。
この件に関して防衛当局は、少なくとも国会できちんと説明できる論拠をそろえることが最低限必要でしょう。ただし、自衛隊の現状は、盾のための装備が慢性的に不十分な状態が続いています。なによりも、その前提となる防衛予算が足りないのですから。
今後の防衛力整備においてまず必要なことは、自衛隊本来の任務を果たす「盾」の能力不足分の早急な回復であり、それが満足された後の課題として、ヘリ搭載型護衛艦とF-35Bの組み合わせや敵基地攻撃能力保有の検討を始めることが筋であると考えます。まして、「中国が空母『遼寧』の整備をすすめているから日本も空母を……」といった考えは論外です。
盾の機能の不足を補うために必要なのはどのような装備ですか。
香田:まずは、島を取られないようにしなければなりません。昨今の我が国の防衛論議では、防衛省の公刊資料も含め島嶼奪還作戦が注目を集めていますが、歴史、特に前大戦における我が国の苦い経験を振り返れば、一度取られた島を取り返せた例はありません。
島を取られない体制構築の第一要件が、敵が侵攻する兆候を早期に察知するための早期警戒能力の向上です。また、南西諸島の島嶼防衛に限らず、我が国防衛全体の立場からも、敵侵攻の際に最初に狙われるのは固定レーダーサイトです。その際の早期警戒能力損失を局限して補完する早期警戒機E-2Dなどの数を増やすことが重要です。
航空優勢を保つための縦深性を高めるために、滞空能力に優れる早期警戒管制機E-767の増強も必須です。同様に戦闘機、現状ではF-35Aでしょうか、空中給油機の数を増やすことも当然です。
陸上装備では、戦車や最近導入された戦闘車などの重車両は侵攻目標と考えられる島嶼に事前に配備しておくべきでしょう。中軽車両を迅速に航空輸送するための大型輸送ヘリもさらにそろえる必要があります。
空港を守れ!
米軍の来援を支援する役割のための装備はいかがですか。
香田:十分とは言えません。先に述べましたように、我が国に来援する米海軍部隊の脅威となるのは中国の潜水艦、爆撃機H-6K、対艦弾道ミサイルです。
これらの脅威のうち、少なくともハワイから西については日本が確実に対処できるようにすべきでしょう。潜水艦脅威をあるレベルまで減殺する。H-6Kは沖縄に至るまでに航空自衛隊の力で半分程度を撃墜できることが必要です。南西列島線をすり抜けた半分については、当面は、発射された巡航ミサイルを太平洋上で作戦するイージス艦で対応します*4。
新たな脅威である洋上における対艦弾道ミサイル防衛については、日米で整合させた対艦弾道弾開発と配備・運用両面での新たな取り組みが必要になると考えます。もし、虎の子の空母に被害が出るようなことがあれば、米国民の参戦意図は崩れ、日米同盟そのものが危機に陥ります。
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