まずは盾の力を引き上げる

日本は矛の機能を論じる前に、いまだ十分でない盾の機能を高める必要があると考えます。まずは、日本の防衛作戦(盾)に米軍を巻き込まないですむようにすることです。巻き込めば、その分、米軍の打撃力を削ぐことになります。そうならないようにして、米軍には得意の打撃作戦(矛)で力を発揮してもらうようにするのです。その前提が、米軍の安全な来援を確実ならしめることであり、自衛隊は我が国の直截的な防衛に加え米軍来援を支援する力を養う必要もあります。
日本は「防衛の基本政策」において「専守防衛」を掲げています。このため、米軍が来援しなければ、外国から複数波の侵攻を受けるうち、いずれかの時点で我が国の命脈が尽きてしまいます。仮に、各侵攻排除作戦における自衛隊の損耗率を4割として計算してみましょう。第1波の攻撃を受けた後は、100%だった防衛力が侵攻撃退の代償として当初兵力の60%に減ります。第2波を受けた後は100×60%×60%で36%に。第3波を受けた後は22%しか残りません。これは、国際標準では全滅ということであり「かくして我が国の命脈は尽きたり」という、最悪の結果につながるのです。
日米同盟の基本は、自衛隊が敵の第1波の侵攻を食い止めている間に、米軍が侵攻国に対して反撃することで、敵国の物理的な侵攻能力や戦争継続活動に必要な工業施設などの戦略ターゲットを破壊して、敵の侵略の意図をくじくことです。それにより敵の侵略戦争を停戦・終戦にもっていくということです。要するに、米軍の来援、すなわち来援米軍による侵略国の策源地に対する戦略打撃がなければ戦争を終わらせることができないのです。
しかし、その基本となる、敵国の策源地を攻撃するために必須となる米軍の来援部隊を自衛隊がどのように支援するかについては、今日の我が国で深く議論されていません。そして、そのための十分な予算も装備も自衛隊には与えられていません。
日本が手を広げようとしている矛の役割とは例えば何でしょう。ミサイル防衛システムは盾ですね。
香田:そうですね。100%盾です。
ヘリ搭載空母「いずも」にF-35Bを載せ、米空母の来援を支援
ヘリ搭載型護衛艦(DDH)「いずも」などにF-35B*3を搭載する案が検討されています。これはどうでしょう。
香田:航空優勢は全ての軍事作戦において必須要件です。その観点から、「いずも」などにF35Bを搭載して航空優勢を獲得する発想は妥当といえますが、鍵となる点は、その用途及び他の代替案との関係です。それをよく考えてから取り組むべきだと思います。
今日の国際環境下の我が国防衛作戦において航空優勢を獲得することが求められる典型的な場面、すなわちヘリ搭載型護衛艦搭載のF-35Bの用途として、米軍来援支援機能確保と島嶼防衛の2つが考えられます。米軍来援支援機能確保に必要な機能として整備を進めることは、ほかに代替案がないので、進めるべきだと考えます。
つまり、次のようなケースが考えられるのです。米軍来援部隊の中核となる空母部隊が日本に向かっており、これを支援すべく、海上自衛隊の対潜水艦部隊が太平洋に向かうとします。これを阻止すべく、中国が爆撃機H-6Kを派遣して大量のクルーズミサイルで日本の対潜部隊を攻撃する場合を考えてみましょう。日本の対潜部隊がミサイル攻撃を受けた結果、その能力が低下するとすれば、米空母部隊を迎え撃つ中国の潜水艦部隊は、日本の対潜部隊の網をすり抜けて、主目標である米国の空母を攻撃して撃破することが可能となります。
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