敵基地攻撃能力は米国との交渉材料
米国の安全保障戦略が変化する中で、敵基地攻撃能力の問題はどう考えるべきでしょう。そして、大綱・中期防でどう扱うべきでしょうか。

小原:私は、日本は敵基地攻撃能力を保有すべきだと考えています。この能力がなければ、外国からの威嚇に対し、その威嚇の根源を排除する意思があることを表明することができません。能力を持ったからといって、必ずしも行使するわけではありません。しかし、政治的なメッセージの本気度を高めるためには、その裏付けとしての能力が必要です。
ただし、日本がその能力を単独で高めること、行使することには慎重であるべきでしょう。米国と協議して進めるべきです。単独で進めた場合、その次の作戦で米軍の協力が得られなくなる可能性がありますから。
これまでは日米は、日本が盾、米国が矛の役割を担ってきました。日本が敵基地攻撃能力を保有すれば、この任務分担を変更することになるわけですから、米国の理解を得ることが必要です。 日本が一部であれ矛の役割を担うことになれば、米国は、日本が起こす戦争に巻き込まれる可能性が生じるわけです。こうした懸念を緩和する必要があります。
その一方で、敵基地攻撃能力の構築は、米国との交渉における取引材料としても有効です。
米国との交渉に役立つのですか。
小原:万が一の話ですが。米国が北朝鮮との交渉において、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発さえしなければ核兵器の保有は認める、と落とし所を決めたとします。
デカップリング(日米離間)ですね。米国への脅威は今以上に大きくならないが、中距離弾道ミサイルが残る以上、日本への脅威は今と変わらない。米朝首脳会談が6月に行われた際、これを落とし所に交渉がなされるのではと、日本の関係者の間で懸念が広がりました。
小原:そうですね。このような落としどころは、日本が許容できるものではありません。「米国がそのような交渉を行うなら、日本は北朝鮮の核ミサイル発射施設を単独で攻撃できる能力を構築する」と訴えれば、それだけでも米国の方針に影響を与えると思います。日米が確実に協力することを担保するのに役立つわけです。
現行の中期防に以下の記述があります。 これは敵基地攻撃能力についての言及ですね、「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力」という回りくどい表現になっていますが。これを改める必要はありますか。
小原:今のところ敵基地攻撃能力を「早急に保有すべき」という状況ではないと評価しています。
ただし、日本国内および米国との間で今後議論していく必要はあります。それをうながす意味で、「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力」との表現を「敵基地攻撃能力」に改めることは考えられると思います。北朝鮮が核・ミサイルの開発を進展させたことで、議論を進める環境は整ってきましたから。
イージスアショアよりもTHAADが政治的にベター
ここからは個別の装備のお話を伺います。まずは地上配備型のミサイル防衛システム「イージスアショア」についてです。政府はこの5月、「導入に向けた取り組みを引き続き進める」と意思表明しました。しかし、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が完全な非核化を約束したので、「必要ないのではないか」という議論が巻き起こっています。大綱・中期防ではどう扱うべきでしょう。
小原:まず、その必要性についてお話しします。私は、地上に配備するミサイル防衛システムは必要だと考えています。いまは海上自衛隊のイージス艦に大きな負担がかかっていますから。
イージス艦は弾道ミサイルによる攻撃だけでなく巡航ミサイルによる攻撃にも対応できます。南西諸島の防衛にも有効。それを日本海に張り付けておく負担は大きいですね。
小原:ええ。
ただし政治的なメッセージとしては地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の方が有効だと評価しています。
イージスアショアを導入するか、THAADを導入するかで、政治的メッセージが異なるのですか。
小原:はい。イージスアショアはミッドコース*6を飛行中のICBMを迎撃するものです。一方、THAADは落下するターミナルフェーズ*7における高度の高いところで撃ち落とすことを想定したシステムです。低い高度は空自が持つパトリオットミサイルが対応する。
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