次は、このレーダーから得られる情報を基に、どの国が何の目的でどのような部隊を展開しているかを検討する。それに対処するためには、どのような兵器が必要で、それを搭載できる航空機は何で、何機必要かを考え配備する。日本の部隊が迅速に展開してくると分かれば、外国はそれに対処すべく、相当のコストを負担しなければなりません。このように対処能力を高めることは、抑止力を高めることにもつながります。

 陸自が日本の最西端である与那国島に沿岸監視部隊を配備したことも同様の効果があります。この部隊だけで、事態が生じた時に中国の艦隊を止められるわけではありません。しかし、この部隊が得た情報を基に、他の部隊が迅速に展開してくると知らしめることで、コストを強要できるわけです。

 こうした体制をより高いレベルにするためには、陸海空の3自衛隊が得た目標情報を統合する必要があります。この点はまだ十分とはいえません。例えば、統合された目標を共有するだけでも容易ではない。同一の目標に対して、複数の探知情報がある場合、それら探知情報を統合するプロセスが発生します。例えば、あるレーダー探知目標が、他のレーダー探知目標と同一であるのかどうかの確認も必要です。これには、電波情報を分析したり、衛星画像を解析したりすることも含まれます。目標情報の統合を高い精度で実行するのは、同一のシステムを用いる一つ一つの自衛隊の中でも容易ではありません。3自衛隊で統合するとなれば、なおさらです。

 情報収集は、いまは「調査・研究」という名目で実施されており、作戦任務とはされていません。この位置づけも変えていく必要があるでしょう。

作戦を、「研究」レベルから真の「作戦」にする

小原:対処能力を高めるためには、米軍と協働する体制もより精緻なものにしなければなりません。例えば日米による共同作戦。これは、米軍は「作戦」と認識しているものの、日本は「研究」と位置付けています。「研究」という位置づけを変更することが難しくても、常設の統合司令部を設け、平時から日常的に行う米軍との指揮所訓練などを通じて検討できるよう改めるべきでしょう。その際は、脅威となる外国の弱点の分析も進める。作戦を立てたら訓練を積むことも重要です。

昨年の4月、トランプ政権が北朝鮮を武力攻撃するのではと緊張が大きく高まりました。そのようなときに自衛隊はいかなる行動をとるのか、事態が起きる前にきちんと決めておき、訓練も積む必要があるということですね。

小原:そのとおりです。

これまで自衛隊が、共同作戦を「研究」することしかできなかったのは、安保法制が制定されるまで集団的自衛権の行使が認められてこなかったからですか。

小原:そうだと思います。

日米同盟の強化と自主防衛力の向上は一体

冒頭で、「日本を取り巻く安全保障環境と、2013年から何が変化したのか、を念頭に考える必要がある」と教えていただきました。最も大きな変化は「米国第一」のトランプ政権が誕生し、オフショア戦略を取っていることですね。欧州・中東・アジアの各地域において、第一線はNATO、イスラエル、日本に任せる。この変化を大綱・中期防に書き込むべきでしょうか。

小原:「オフショア戦略」という表現は必ずしも適切ではありませんし、また、文字にして大綱に書き込む事案ではないと考えます。書くとしたら「米朝首脳会談が行われ、朝鮮戦争が終結する可能性が生じた」という具合になるでしょう。朝鮮戦争が終結する、すなわち、日本が最前線になるということですから。

 米政権の外交・安保政策が変わっても、日米同盟を破棄するオプションは日本にはありません。これをどう有効に動かしていくかを考えるしかありません。

大綱・中期防に、「自主防衛力を高める」方針を書き込むべきという意見もあります。

小原:これまで申し上げてきたことは、自主防衛の強化につながるものと私は考えます。つまり、日米同盟の強化も自主防衛の強化につながる。また逆に、日米同盟の強化には自主防衛の努力が含まれるということでもあります。

 日米同盟は、「日本が米国に頼る」枠組みではありません。日本が最大限の自助努力をし、米国がそれを認めなければ、米国が日本の防衛に着手することはないのです。日本は自主防衛力を高め、それを米国に認めさせるようにしなければならない。

 繰り返しになりますが、平時から米国と協調することが大事です。米国と共同作戦を取る段階になった場合、それまでの経緯をお互いが知っていたほうがスムーズに進みます。同盟調整メカニズムを通じて、お互いの状況を理解しておく。こうした情報共有が、米国がいつ日本の防衛に関与するか意思決定をする際に、影響を及ぼすことがあるでしょうし。

 さらに、日米同盟を北東アジア地域における、さらにグローバルな公共財にすることに、日本が努力することも重要です。先ほどお話しした小笠原諸島に設置したレーダーで取得したデータを米国と共有する仕組みを高めれば、この地域の情報収集は日本に任せてよい、となるかもしれません。台湾有事に日本がどのような役割を果たすかを詰め、実行することも、地域の安全保障への貢献につながります。