
常熟市当局の動きは、こうした企業の動きに対応したものだ。100人近い職員を20チームに分けて、汚染物質を排出している企業60社を取り締まった。取り締まる企業に関する情報が事前に漏れないように、職員のチーム分けや担当企業はすべて抽選で決める徹底ぶりだった。
もちろん日本企業も、中国の環境関連の取り締まり強化の動きとは無縁ではいられない。日本企業の多くが中国での拠点を置く上海市では、2015年ごろから環境規制が厳しくなり、「このままでは工場を動かすことはできないのではないか」(日系企業幹部)といった声もある。
半年で日系企業の処罰事例が30件以上
懸念は現実のものになっている。上海市の環境保護局が公表している取り締まり企業の情報によると、15年7月から16年12月末までに日系企業が処罰を受けたケースは50件以上に上る。さらに今年1〜6月の半年間だけで30件以上の処罰事例が出ている。
現地企業を含めると、毎月数百件の違反企業が出ている中で、日系企業は決して多いとは言えない。だが、違反企業に名を連ねた日系企業の中には、環境への取り組みを喧伝している企業もある。
ある大手日本企業の現地法人は、数回にわたる当局の調査の結果、単に環境規制の違反として取り締まられただけでなく、調査を忌避したとして処罰を受けている。環境コンサルティング企業、上海清環環保科技の清水泰雅CEO(最高経営責任者)は「もともと日本企業は『環境問題に対して先進的』と思われているだけに、日本企業のイメージが悪化する可能性がある」と話す。
清水氏は「規制強化の動きを日本人の幹部社員や日本の本社が把握しきれておらず、対応が後手に回って処罰されるケースが多い」と指摘する。日系企業では、本社の役員が現地法人の法定代表人になっていることも多い。「本人があずかり知らないうちに、違反企業の代表として名前を公表されている例もある」(清水氏)。過去の経験を基に「当局との関係が築けているから問題ない」「すぐにやらなくても大丈夫」といった対応が、日系企業が摘発される要因の一つになっている。
中には長期にわたり、工場の操業を止められている違反企業もある。自らの企業に違反はないものの、部材などを購入していた中国企業が操業停止になり、サプライチェーンに影響が出ている日本企業もあるという。中国政府の環境対策がこれまでとはステージが異なるとの認識を持たなければ、環境経営に熱心に取り組んできた日本企業であっても足をすくわれかねない。
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