攻撃してきたツマアカスズメバチ

 冒頭の駆除作業に場面を戻す。

 ゴルフ場の梨の木の上の方に目を凝らすと、木の中に茶色い立派な巣が見えた。駆除に訪れた担当者は2人。いずれも顔まで覆う白い防護服を着込んでいる。  駆除の手順はこうだ。まず木を登り、巣まで近づいて、一気に殺虫剤を噴霧する。そこですかさず枝を切り用意していた袋に落として口を閉める。

 担当者がおとなしそうだ、と言っていたのは、巣の性格だ。「ツマアカスズメバチは巣によっておとなしい、群がるなど特徴を持つ」と対馬市文化交流・自然共生課の神宮周作氏は語る。それでも一般的に「人や鳥獣などから刺激を受けると警戒して狂暴になる」という。

駆除業者は白い防護服をしっかり着込む
駆除業者は白い防護服をしっかり着込む

 記者がスズメバチの巣を実際に見たのも、駆除作業を見たのも、初めてだった。一緒に見ていた関係者が「10メートル以上は離れたほうがいい」と忠告してくれるのを流して、「刺激を受けたら離れよう」と、木から5メートル前後の近くで見学した。

 高い場所まで登り、巣に近付いていく白い防護服姿の担当者。「薬をまくならそろそろ離れよう」と思った瞬間、「ブーン」と大きな音が耳元で聞こえた。 「ハチだ!」と聞こえた瞬間パニックになり、「近づいたらとにかく動かない」という対応の「イロハのイ」も当然のごとく忘れ、獅子舞のように頭を振り乱し、何とか避けようとしてしまった。

 これが仇となった。耳元での恐ろしい「ブーン」という羽音は消えず、突然、予防接種のような、じっくりと針で刺される感触を受けた。耳の裏とおでこの上の2か所を刺されていたが、どちらが先だったのか、覚えていない。

アナフィラキシーショックに注意

 ツマアカスズメバチに刺された場合、注意しなければいけないのはアナフィラキシーショックだ。動悸や頭痛に襲われた場合はすぐに病院に行く必要がある。幸い、記者はただ刺された痛みだけを強く感じ、頭痛も動悸もなかった。氷をもらい、ひたすら冷やし、痛みを忘れるようにした。韓国人観光客でいっぱいの薬局で塗り薬を買い、頭皮に塗った。

 数日後に大きく腫れる可能性がある、と言われたが、3日後には刺されたことを忘れそうになるほど、通常の生活に戻ることができた。髪の毛のおかげで、深く刺されなかった可能性もあるようだ。

今回駆除した巣
今回駆除した巣

 今回、刺されてしまったのは好奇心に負けて注意を怠ったせいだ。「おとなしい巣」という言葉が耳に残っていたからかもしれない(もちろん担当者のせいではない)。ツマアカスズメバチは、薬剤などの刺激を受けると攻撃的になるが、ヒアリと異なり、こちらが何もしなくても刺してくる可能性があることを忘れていた。

 もしも本土にツマアカスズメバチが定着したら──。取材では、米国におけるヒアリのように、経済被害がどのくらい広がるのかを明らかにしたいと思っていたが、そうした額を算出した調査などは見つからなかった。だが、刺された者としてこれだけは言える。ツマアカスズメバチが定着したら、日常生活における恐怖は間違いなく、増える。