日本は世界に先駆けて高齢化社会を迎えるとみられている。2025年には約30%、2060年には約40%が高齢者となる見込み。課題先進国ともいうべき日本のなかで、さらに課題先進地域がある。それが関西だ。三大都市圏のなかで最も高齢者比率が高く、若者の転出も多い。2025年の大阪の生産年齢人口は2010年に比べ11.6%減と、人手不足が加速する可能性が高い。
そんな関西だが、課題が先に浮き彫りになるからこそ、イノベーションが生まれるとみる専門家がいる。りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「デフレ脱却が前提となるが、関西は現状のGDPを維持し、若者は高い所得を得られる街になれる」とみる。
ただGDPを維持するにも、人手が足りなければ実現できない。荒木主席研究員は不足分をロボットでカバーできると予測する。付加価値の高い領域だけ人が担うように役割分担することで、所得が増える未来を描く。IT(情報技術)やIoTを活用し、人手不足を補う。関西は2020年までに10万人ずつ人手不足が懸念されているため緊喫の課題だ。荒木主席研究員はこうした省力化に関する市場は2020年までに1兆8500億円になると試算する。
にしなかバレー参加企業の1社、デイサービス施設を運営するポラリス。参加企業と連携し新たなサービス開発を模索する
この市場を狙って、若手起業家が大阪に集まりだしている。にしなかバレーがそれだ。大阪市営地下鉄御堂筋線「西中島南方駅」周辺に若手起業家が集まる。大阪の中心地、梅田へも新幹線に乗るにも数駅と利便性が高い。その割に賃料が安く起業家が集まりやすい環境が整っている。にしなかバレーの代表でアイプラグの中野智哉社長は「様々な業種の起業家が集まっているので連携もしやすい」と話す。
アクティブシニアに狙いを定める
関西は省人化市場だけでなく、高齢者が多いことで内需拡大やイノベーションの創出も見込まれている。
まず内需拡大には、高齢者のなかでも十分な資産と若者並みの消費意欲と健康を兼ね備えた人たちが牽引役となる。これらの高齢者がしっかりとお金を使うことで内需を拡大する牽引役を担う。
こうしたアクティブシニアを狙った企業も増えてきた。ゴルフウエアを製造するグリップインターナショナル。神戸市に本社を置き、主に百貨店でゴルフウエアを販売するブランドを持つ。一般的な商品よりも2~3割ほど高いが売れているという。
桑田隆晴社長は「高齢者のなかでもいつまでも40歳の気分を持ちたいと思っている方に売れる」と話す。同社が設定する想定年齢は40歳だが、ゴルフのための上質なウエアを探していた高齢者からも支持を集めている。「ゴルフをスポーツウエアではなく、上質な専用着でプレーしたいというニーズは大きい」(桑田社長)。
ゴルフ以外にも様々な趣味を楽しみたいアクティブシニアが増えてきた。
高齢者向けのレクレーションを開発するBCCホールディングスの伊藤一彦社長は「これまで企業は高齢者がお金を使いたいと思わせる商品を提供できていなかっただけ。しっかりとサービスを提供すれば売れる」と語る。
実際、同社ではデイケアセンターなどで化粧品メーカーと組んで、メイク教室を開く。その際に高級化粧品を案内し評判が良いという。ほかにも、有名寿司店の板前を呼んで食事を提供するなどしている。
今後バリアフリーのレストランと提携し、鉄板焼きや高級レストランのフルコースを食べられるサービスを提供する予定。「美味しい食事は生きる活力になる。食べたいと思う欲求こそが健康には不可欠」(伊藤社長)。
医療と介護でイノベーションを起こせる可能性を秘める。船井総合研究所執行役員で経営改革コンサルティング事業部副部長の岡聡氏は「大阪といえば、ドケチの文化。だからこそ本質のサービスだけが生き残れる」と話す。自然派ワインが飲めるレストラン10店を営む小松屋の藤田牧雄社長も「大阪はほんまもんを求める。でも値段に関してはどこよりも敏感。大阪で成功すればどこでもやっていける」と話す。
実際サービス付き高齢者向け住宅も同質のサービス水準でも価格が安い。介護情報を提供する笑美面の榎並将志社長によると、関西の平均月額費用は10~13万円。だが東京で同等のサービスを受けるには15~18万円かかるという。「大阪は介護サービスで工夫をこらすことで低価格を実現できている。将来ロボットが導入されれば、より人手不足時代でも対応できるだろう」(榎並社長)。
医療技術を世界へ輸出
医療分野ではこれまでの地の利を活かせる。関西地区は電機メーカーが多く、関西の輸出の主力業種である。2014年の輸出構成比でみると、電機機器が28.1%と全国平均(17.3%)よりも高い。だが、最近、電機メーカーは海外へ製造拠点の移転が進んでいる。下請けとなる町工場も苦境に立たされている。
大阪の中小企業と大学が連携した「ものづくり医療コンソーシアム」。医療機器が関西の輸出の柱となることを目指す
町工場も医療分野に賭ける。大阪市立大学と大阪府下の中小企業49社が集まり、ものづくり医療コンソーシアムを発足させた。参加企業の1社で航空部品を製造するアオキの青木豊彦会長は「大阪の中小企業を持ち前の技術を医療であれば活かせる。大阪を元気にして後継者も育てたい」と話す。すでに複数の企業と医療機関でプロジェクトが進んでいるという。大阪市立大学の荒川哲男学長兼理事長は「医療とものづくりが融合することで、関西の輸出産業の柱となってもらいたい」と話す。
こうして鍛えられた課題解決力は海外にも確実に輸出できる。課題が多いが山積みだからこそ解決策が生まれるのだ。
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