町工場の感覚を生かす

 アイーダの教訓から、船の建造における工程管理の重要性を理解した長崎ではマネジメント能力を持つ人材の育成にも力を入れる。客船だけでなく、商船で今後顧客からの個別要求に応えて建造工程が複雑化するケースを想定。建造中のLNG船で試験運用を始めた。宮崎氏は「何かトラブルが起きても、深刻化する前に解決できるような体制になった」と評価する。

 中長期的には長崎と下関の人材交流も進める。下関での経験が長い竹田氏は「下関は自分たちのことを町工場と思っており、常に潰れる危機を感じてきた。そのため、若いうちからコストや工程に対する管理能力は厳しく叩き込まれている。そうした感覚が長崎と同じになるよう、やっていきたい」と意気込む。

町工場の感覚が残る下関造船所

 意識改革やコスト管理で下関流を学ぶ長崎。今後は両造船所の知見を生かしあう場面も出てきそうだ。

 狙うのは大型フェリーの受注だ。ドックの大きさに限りがある下関では長さが200メートルまでの船しか建造できないが、長崎の立神地区にある本工場はより大きな船を建造できる大型ドックを備えている。長崎からすれば、客船と構造が近い大型フェリーを受注することで、アイーダの反省を生かすことができる。宮崎氏も「長崎でフェリーの建造ができるよう、準備は既に始めている。大型フェリーの受注を目指したい」と話す。

 日本の造船業界は1970年代のオイルショック以降、長い間需要の低迷に苦しんできた。三菱重工も例外ではなかったが、同社にとっての造船は祖業として特別な存在。そうした名門意識が改革の壁になっていた面が否めない。

 しかし、分社化によって、造船事業も三菱重工グループに数多ある内の1つの事業会社という位置づけになった。ぬるま湯体質を改めなければ、容赦なく他社と統合させられる可能性もある。「稼がないと造船は続けられない」(宮崎氏)。三菱造船が分社化という環境変化をバネに、再び輝くことができるか。長崎と下関の二人三脚で、まずは大型フェリーを受注し、造船事業の成長に向けた新たな航海図を描くしかない。