日本のIUU対策の評価を教えてください。

カーロス:日本がPSMA協定を批准したことは素晴らしいニュースです。日本は漁獲量も魚介類の輸入量も大きい。IUU対策において不可欠なプレイヤーです。日本にはIUUに関するすべての対策に協力をしてもらいたいと考えています。

 日本は特に近年、漁業者の監視やトレーサビリティの問題に積極的に取り組もうとしていると感じています。特に周辺国がIUU対策に取り組むよう強く呼びかけています。漁業資源を保護する観点から見ても重要な問題ですからね。2020年の東京オリンピックで、持続可能な漁法で獲れた魚を提供するという課題もあります。

 日本は非常に多くの漁港があり、監視の目を行き届かせるにはハードルがあります。完璧を望むのは難しいかもしれませんが、重要なのはIUUを撲滅しようという日本の意志です。

日本に残された課題はなんでしょうか。

カーロス:あくまで私見ですが、日本の漁業者の管理は非常に複雑な形態になっています。漁業者の管理の一部は地域(の自治体や漁業共同管理組合)に任されています。つまり、水産庁の法律による強制的な管理だけではなく、漁業者の自発的な動きを必要とする枠組みです。

 漁獲枠を超過しそうになった場合、禁漁期を設けるかどうか、漁業者の判断に任されてしまうケースがあります。規制としてはやや弱い。こうした抜け穴を塞ぐ必要があるでしょう。

 日本には弱点がありますが、弱点を改善しようという意思もあります。日本にはEUの取り組みを参考にしてもらい、協調してIUU対策に取り組んでもらいたい。日本の各地域の漁業者組織とも情報交換を進めていきたいと思います。

日本も周辺諸国と協調を

日本の漁業資源は中国や韓国と食い合いになっています。こうした周辺国からのIUU漁船が資源にダメージを与えている面もあります。

カーロス: 2013年からの一時期、韓国をイエローカードの対象国に指定していたこともあります。アジアでは台湾やタイも含め、イエローカード、レッドカードの対象は計7カ国・地域でした。こうした国・地域に協調を求める協議を続けています。

 中国は西アフリカでの操業などに関して、問題を抱えています。しかし、日本と同様、2年前からEUとワーキンググループを設置しており、IUU漁業がいかに深刻なダメージを資源に与えているかについて、議論を進めています。中国にもIUU対策について前向きに取り組む姿勢が見えてきていると思います。魚介類の輸出大国である中国と協調していくことは特別な意味があります。

 日本もIUU対策における協調関係のあり方を周辺諸国と考えていくことが必要です。北太平洋漁業委員会(NPFC)でのサンマの漁獲規制の議論で、残念なことに日本が提案した漁獲枠は中韓に反対されています。これは裏返せば、日本は中韓との協調の道を確立する必要があるということでもあります。

 EEZ(排他的経済水域)や領海の境界線について周辺国と議論があるようですが、IUU対策とは切り離して考えていくべきです。境界線の問題とは関係なく、EUのように日本に水揚げされる魚介類を漁獲証明書でコントロールする枠組みは作ることができます。

 漁獲証明制度によりトレーサビリティを確立することは、消費者意識の変革にも大きく寄与します。販売時に持続的な枠組みで獲られていることを示すロゴを貼れば、持続的な漁業の重要性を啓発することにつながります。適切な枠組みで操業している漁業者への後押しになるでしょう。消費者に中韓の漁業の問題に目を向けさせるよりも、もっと建設的なアプローチではないでしょうか。

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