IUU漁船への対策が世界の漁業国の大きな課題となっている。IUUとは違反・無報告・無規制(Illegal・Unreported・Unregulated)を意味し、無許可操業、漁獲量の報告義務を怠る行為、禁漁水域・魚種の漁獲などを指す。IUUによる乱獲が進めば、漁業の持続性は失われる。広大な海をIUU漁業から守るには、国際的な協調も不可欠だ。日本も今年、IUU漁船の寄港を拒否する違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA協定)に加わった。この問題で大きな動きを見せているのがEU(欧州連合)だ。2010年に対策を制度化。域内での厳密な監視に加え、対策に非協力的な国を指定し、禁輸措置にも踏み切る。IUU対策のあるべき姿とは何か。駐日欧州連合代表部のメルヴィ・カーロス参事官に聞いた。

2010年にIUUの規制を強化した背景を教えてください。

メルヴィ・カーロス氏(以下、カーロス):EUは魚介類の主要な輸入地域としての責任があります。国連食糧農業機関(FAO)からの要請に従い、2000年代前半からIUU対策に取り組んできました。しかし、なおいくつもの魚種の資源量の急減が続いており、消費者として、あるいは漁業関係者として、さらなるアクションをしなければいけない時が来ていました。

駐日欧州連合代表部のメルヴィ・カーロス参事官は「すべての漁業国がIUU対策に取り組むべきだ」と訴える
駐日欧州連合代表部のメルヴィ・カーロス参事官は「すべての漁業国がIUU対策に取り組むべきだ」と訴える

IUU漁業の被害規模はどれくらいになるのでしょうか。

カーロス:やや古い研究になってしまいますが、2007年の推計では世界で年間約100億ユーロ(約1.3兆円)分の漁獲があるとされています。これは世界の漁獲高の19%に相当します。当時のEUの魚介類輸入額が16億ユーロで、うち1.1億ユーロがIUU漁業によるものとみられます。IUUは自然環境、そして漁業という産業の持続性に対する大きな負荷になっています。

 7年間の規制の運用で、EU域内の状況は改善されてきたと感じています。しかし、まだ全世界の状況を正しく把握はできていません。IUUは先進国だけの問題ではなく、漁業への依存度が大きい発展途上国も取り組まなければいけないことです。IUU漁業は法を遵守する漁業者の敵なのですから。

EUは具体的にどのような取り締まりをしているのでしょうか。

カーロス:規制の中で漁獲証明書制度について定めています。これが監視システムの核になります。漁獲時や水揚げ時の報告を義務化してトレーサビリティ(追跡可能性)を確立し、正規の漁業により獲られた魚介類であることを保証する証明書を発行します。証明書がなければ、域内での取引はできません。観賞魚などの一部例外を除き、原則すべての魚介類が対象です。

 これは域内外問わず、EUで取引をするすべての漁業者の義務です。我々が求める規制は国際的な漁業関連法を具体化しただけのもので、目新しいものではありません。漁業国全てが受け入れるべき内容だと考えます。

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