65%で漁業者の生活は賭けられない

太平洋クロマグロは絶滅危惧種に指定されるほど資源量が減っている(写真:つのだよしお/アフロ)
太平洋クロマグロは絶滅危惧種に指定されるほど資源量が減っている(写真:つのだよしお/アフロ)

日本が今回提案した60%、65%の確率で規制を変える枠組みで、「2034年までに13万トンまで回復」を達成することは可能でしょうか。

ギボン:60%も65%も資源を回復させるためには低すぎる数字です。65%の成功とは35%、つまり3分の1の確率で失敗するということです。漁業者の生活を賭けるには3分の1という失敗確率は高すぎるでしょう。下手に漁獲枠を増やせば、むしろ将来の漁業者の生活を脅かすことになります。そもそもクロマグロの資源評価は非常に不確実性が高い。余裕を持って数値設定をしなければいけません。

 私たちは、漁獲枠を増やすことを検討するには少なくとも75%の確率が必要だと考えます。他国もこのレベルの数字が妥当だと考えていると思います。(編集部注:NCでは漁獲枠を増やすことを検討するために必要な確率を75%とすることで合意した)

日本は資源調査船のデータの蓄積は世界有数のはずです。なぜ科学的議論において日本の意見は他国と異なるのか。意見をお聞かせください。

ギボン:日本は米国やEU(欧州連合)とともに北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)に参加しています。ISCの資源評価は漁獲規制のベースになります。日本はISCに多くの科学的データを提供してくれています。一方で、日本は漁業という産業の目先の利益を保護することを優先してきたのではないかと思います。

 しかし、クロマグロの資源量がここまで危機的水準になったため、このままでは保護するべき漁業が潰れてしまうことに日本も気づき始めていると思います。

漁業者の管理体制に違い

漁獲規制に対して漁業者が強く反対すると、日本の水産庁は規制緩和にあっさり応じてしまう傾向があったように思えます。米国では、どうやって漁獲規制に参加するよう漁業者を説得しているのでしょうか。

ギボン:米国の漁業法は、経営規模の大小に関わらず、すべての漁業者を対象にしています。違反者には是正勧告が下り、悪質な場合には漁業権の剥奪や懲役刑もあり得ます。

日本では、大まかに分類すれば、遠洋を大臣許可漁業、沖合を知事許可漁業、沿岸を漁業協同組合が漁業権を管理する漁業と、複雑に管理制度が分かれています。日米の大きな違いですね。漁業者に法を守らせるためにはどのようなシステムがあるのでしょうか。

ギボン:主な魚種はほぼCDS(漁獲証明制度)が導入されています。漁獲から、水揚げ、取引とすべてのステップで電子的に記録を残し、不正操業による魚でないことを証明します。証明のない魚は水揚げも売買もできません。漁業者はスマートフォンのアプリを使って漁獲データを報告できるので、漁業者に設備負担は生じません。CDSは漁業者を管理するためだけのものではなく、法を遵守する漁業者の利益を守るシステムです。

ギボン氏は9月1日、WCPFC閉会直後に以下のコメントを日経ビジネスに寄せた。

 今回の合意は、太平洋クロマグロの資源回復への大きな前進です。クロマグロの生態系だけでなく、漁業者の生活を改善することにもつながります。一方、昨季日本でも起きたような漁獲枠の超過が繰り返された場合、今回の合意の意義が薄まり、漁業の健全で持続可能な未来が脅かされることになります。

 今後、水産庁には、不正操業に対する罰則や警戒の強化、太平洋クロマグロについてCDSの導入を早期にすすめることを期待しています。