一方の日本。一部の魚種を対象に漁獲可能量(TAC)と呼ぶ、国内の漁業者全体で守る漁獲上限が定められている。しかし個々の船の上限はない。そのため、毎年漁が解禁となると、ライバル船に先を越され上限に達する前に、我先にと漁場に向かい、獲れる限りの魚を獲る。例え十分に成長していない稚魚であったとしても。その結果、漁場は毎年貧しくなる。ノルウェーとの違いは明らかだ。

 IQ方式の成功に加え、ノルウェー漁業の成功を支えた要因は、漁師の数を減らしたことにある。1980年代に2万5000人いた漁業専従者は今では9000人まで減っている。1970年代の乱獲時代に政府は漁船数の削減を計画した。IQ方式の導入とともに、漁獲枠を与えるライセンスを小規模の非効率的な漁業者には与えないことにし、漁船の集約を促した。「効率化を進めるためには、つらい歴史があった」とクヌート氏は振り返る。

 漁業者が減ったことにより、一人当たりの漁獲量は増え、所得が増え、漁船に最新鋭の設備を入れられるようにった。頭数が減ったことで漁獲管理が容易になり、漁場は守られた。そして漁業はノルウェーを代表する成長産業へと様変わりしていった。

ベルゲン市内の魚市場。漁獲管理を通じて漁場を守ったからこそ、豊かな海の幸を享受できる

漁業生産量が4割に落ち込んだ日本とは対照的

 翻って日本はどうだろうか。

 日本でもIQ方式をマサバなどで試験導入したが、大規模な実施にはつながっていない。小型の古い漁船が多く、漁獲量を船上で測定し、衛星通信などで即時に報告する機能を備えていないものが多い。

 日経ビジネスのインタビューに答えた水産庁の長谷成人長官は「日本に多い定置網などの漁法では、意図した魚種以外が網の中に入ることが多く漁業管理は難しい。ノルウェーに比べて魚の種類も豊富。管理方式をそのままぽんと持ってくれば、全てうまくいくとは思っていない」と答えている。

 確かに条件は違う。日本では漁獲量全体の8割を18種類の魚種が占めるのに対し、ノルウェーの場合は7種。獲れる魚の種類が少ないと、漁獲の管理も比較的容易ではある。しかし、これまで本格的な対策を怠ってきた漁業政策への言い訳にも聞こえる。

 日本の漁業界はこれまで漁業者の生活を最優先し、厳格な規制を導入してこなかった。その結果、資源の枯渇が進み、漁業生産量は30数年で4割まで減ってしまった。

 長期的な青写真を描き、漁業関係者に納得してもらい、大胆な漁船削減や漁獲制限などの痛みの伴うルールを導入する。こういった調整をすることが、行政や業界団体の役割ではないだろうか。このままではノルウェーとの差は開くばかりだ。