切れ味のいい戦略がトップダウンで組織全体に広がる

そもそも、ドイツ企業の強さは、どういったところにあるのでしょうか。

長島:切れ味のいい、一部の頭のいい人たちが作った戦略が、しっかりとトップダウンで組織全体に広がっていくということでしょうか。例えば、モジュール化を進めた自動車業界のプラットフォーム戦略も、その一つです。

 最初はやはり失敗しているんですよ。モジュールを作ったけど、うまくいかなかった。それでも、失敗から学んで最終的には実現しました。インダストリー4.0も、同じだと思います。「こういう仕組みに変える」とトップダウンで決めて、それを組織全体がしっかり守るということが、おそらくできています。

 もちろん、日本のカイゼン活動のような現場の創意工夫もあります。ただ、あくまでも現場は自分に与えられた役割の範囲内で創意工夫をするのであって、日本のように大部屋にぜんぜん違う部署の人が集まって議論したり、視野がほかの部署にも広がっていったりといったことは、あまりありません。

自分に与えられた仕事をしっかりやって、基本は9時5時で残業は一切やらないと聞いたことがあります。

長島:そういうことですね。だからこそ、逆に生産性は高いんです。

インダストリー4.0では、IoTを活用して、工場の中だけではなく、材料の調達のところから製品の販売のところまでバリューチェーン全体をデジタル化しようとしています。

長島:基本はPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)というソフトウエアの活用から、そのあたりはどんどん進んでいっていますよね。開発での設計変更や調達する材料の変更などを即座に生産面にも反映できるようにするなど、リアルタイムに全部署がつながっているイメージです。

 今までは、情報を順番に送り出していくようなイメージですよね。だから、どこかの部署が「聞いていない」といったようなことが起きるわけです。こうしたコミュニケーションのムダを徹底的になくしていこうという取り組みとも言えます。

 この部分は、進化が止まらないエリアだとは思いますね。今までは本当に縦割りで役割を切って、それぞれが自分の役割を果たせば最後はちゃんとした製品ができていました。それを、有機的にどうするのが一番お客さんにとっていいのかという議論に、今後移っていくのだと思います。それが今、始まったところです。

インダストリー4.0が6年目にして、工場の中だけだった話が、より広い横のつながりへと広がってきたということですか。

長島:そうですね、PLM自体は以前からありましたが、複数のソフトウエアを連携させるインターフェースなどの細部も含めて、どんどん良くなってきたということです。その背景には、やはりSAPやシーメンスがソフト会社を買収していったことが大きいと思います。それによって、PLMがより機能するようになってきました。

ドイツのインダストリー4.0から日本企業が学べることがあるとすれば、何があるでしょうか。

長島:長期的なロードマップを持っているというのが、すごく大事なことですね。自動車業界を襲ったディーゼル不正の問題など、ロードマップが狂うと大変なのですが、狂わないような努力は大切でしょう。そして、モジュールの組み合わせで製品を作ろうといった発想は、日本勢ももっと持った方がいいと思います。既に誰かがやっているということを知らないで、ゼロベースで作ると言った無駄なことが、日本企業にはすごく多いと思います。

例えば、アディダスの例に戻ると、シーメンスが持っているスマート工場のソリューションだとか、SAPのソフトだとか、そういうのをうまく組み合わせて、アディダスとして目指すべきことを実現していく、といった発想でしょうか。産業界に散らばっているソリューションを、モジュールのように組み合わせて新たな付加価値を創造していくということですか。

長島:おっしゃる通りですね。そこで一番大事なのが、先ほどお話したロードマップです。自分たちは、いつ頃までに、こういうことを実現したいという、強い経営の意志を持つことが重要ですね。