AI(人工知能)時代の到来をにらみ中国に接近か

先ほど標準化という話がありましたが、グローバル競争の中に位置づけると、ドイツの動きをどのように評価したら良いのでしょうか。そもそも、ドイツが産官学一体となってインダストリー4.0を推進しようという動きになった背景には、中国が世界の工場として台頭してきたという危機感がありました。ところが最近、G20(20カ国・地域)サミットでドイツのアンゲラ・メルケル首相と中国の習近平国家主席が、デジタル化支援を含む覚書を交わすなど、両国が急速に接近しているようにも見えます。中国と接近することで、インダストリー4.0に関するグローバル競争で優位に立とうという考えもあるのでしょうか。

長島:あると思います。そもそも、ドイツの自動車業界は世界に先駆けて中国に投資をしてきました。中国に対する投資は、凄まじいものがあります。

フォルクスワーゲンは中国企業と合弁で現地生産を始めた初の外資自動車メーカーでした。

長島:ボッシュやコンチネンタルといったドイツの自動車部品メーカーも、積極的に現地のサプライヤーを育成・支援するような取り組みを実施してきています。中国の産業政策や技術トレンドは、ドイツの影響をかなり受けているといってもおかしくないと思います。

 ただし、中国政府が関与するような部分についてはドイツの影響が大きかったとしても、それと同時に、民間レベルでは米国発の破壊的イノベーションの模倣を積極的にやっています。インターネットを使ったサービスなどは、何でもかんでも似たようなものがある。だから、中国では製造業的な部分についてはドイツ色が、サービス業的な部分については米国色が強く、両方が混在しているというのが、実情だと思います。

そういう文脈で考えると、ドイツと中国が接近している意義というのは、どう考えたら良いのでしょうか。

長島:中国市場が自分たちの技術ロードマップに近いものになってくれたら、自分たちの商品がたくさん売れます。

シーメンスが得意とするような工場の製造設備などのモノ作り系機械を中国に売れるし、SAPのようなソフトウエアも中国に売れる。

長島:そうです。そしてもう1つ、おそらく重要になってくるのがAI(人工知能)のところですね。

 AIの基本的なアルゴリズムは、ほとんどがオープンソースですよね。米グーグルの「テンサーフロー」が有名ですが、そうしたオープンソースを使って何をやるか、どんなアプリケーションを作るかという時に重要になるのが、データです。AIの精度を高めるには、大量のデータを学習させなければならず、そのデータをどうやって集めるかが、今後の競争を大きく左右します。

 グーグルや米アマゾンは、膨大なデータを持っていますが、その一方で多くの工場がある中国では、製造業関連のデータを大量に持っています。ただ、データがあるだけではダメで、使えるものに整える作業ももちろん必要です。それでも、世界の工場の中国には、とりあえずデータの数はあるわけです。

 AIの分野でドイツが圧倒的に優勢かというと、そんなことはありません。しかし、中国と手を組み、そこで手に入るデータを生かすことができれば、今後、AIの世界でドイツが力を付けてくる可能性もあるでしょう。