本誌特集(2017年8月21日号)との連動企画「ここまで来た!デジタル ドイツ アディダス、VW、シーメンスの変身」では、これまで主にアディダスやシーメンス、SAPといったドイツを代表する大企業で急速に進むデジタル化をリポートしてきた。一方、ドイツ国内全体を見れば、これまで「ミッテルシュタント」と呼ばれる中小企業群の強さが経済を支えているとも言われてきた。専門特化した製品で世界トップシェアの中小企業も多く、こうした企業を元大学教授で経営コンサルタントのハーマン・サイモン氏が、「隠れたチャンピオン」と名付けたことは有名だ。
こうした産業構造を持つドイツで、インダストリー4.0の成果はどこまで浸透しているのか。みずほ総合研究所の吉田健一郎氏にデータを駆使して分析してもらった。特集で見てきたように、製造業を中心にドイツの大企業は生産性向上の恩恵を受けているようだが、一方で中小製造業への浸透が課題として浮かび上がった。
リーマンショックや欧州債務危機を経ても、なお強いドイツ経済へ注目が再び集まっている。なかでも力強い雇用の伸びに対しては、「ドイツ労働市場の奇跡」と呼ばれることもある。背景としては、2000年代前半に行われた労働市場改革が挙げられる。実際、改革が行われた2002年以降、ドイツの雇用者数は約13%増加し、ユーロ圏主要国や他の先進国と比較しても増加のペースは早い。
本稿では、2000年代前半に労働市場改革が行われてから最近に至るまでのドイツ経済の状況を、産業別の雇用者数や付加価値の分析を通じて検証した。検証の結果を先に述べると、意外なことに、2010年代に入ると、ドイツ経済のけん引役と考えられる製造業において、中小企業の雇用減といった地盤沈下が起きていることが分かった。
ドイツ連邦統計局による中小企業の定義は、従業員規模249人以下、または年間売上高5000万ユーロ(約61億円、1ユーロ=122.6円で換算)未満の企業を指す。中小企業はさらに従業員規模に応じて、零細(従業員規模9人以下または売上高200万ユーロ未満)、小企業(同10~49人または同1000万ユーロ未満)、中企業(同50~249人または同5000万ユーロ未満)に細分される。従業員規模250人以上または年間売上高5000万ユーロ以上の企業は大企業に分類される。
まず、ドイツ経済の産業別付加価値や雇用者数などの全体観を確認してみよう。同国の2014年の産業別付加価値額は図2の通りで、製造業が最大のシェア(33.9%)を占める。
次に、雇用者数でみても26.1%とおよそ4分の1が製造業だ(図3)。
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