本誌特集(2017年8月21日号)との連動企画「ここまで来た!デジタル ドイツ アディダス、VW、シーメンスの変身」では、これまでアディダスやシーメンス、SAPで進むドイツ企業のデジタル化の最前線をリポートしてきた。こうした動きは、ディーゼル不正問題が今も尾を引くドイツの自動車業界でも同じだ。逆風の中で、ダイムラーなどドイツの自動車メーカー各社が取り組むデジタル化の様子は、日経ビジネス本誌の特集記事PART3「ディーゼル不正問題で加速 自動車産業の破壊と創造」(有料会員限定)をご覧いただきたい。

 そこで詳しく報じた通り、変革を迫られているのは自動車部品メーカーも例外ではない。自動車部品世界大手として知られるボッシュもまた、デジタル化に対応するために事業構造改革に取り組んでいる。同社のフォルクマル・デナーCEO(最高経営責任者)に、排ガス不正問題後の世界と、デジタル時代にボッシュが進むべき道について、話を聞いた。(聞き手は 蛯谷 敏)

<b>フォルクマル・デナー(Volkmar Denner)氏</b></br>1956年11月生まれ。パワー半導体、集積回路、エンジン開発などの部門を経て、03年にオートモーティブエレクトロニクス部門プレジデントに就任。06年に取締役。12年からボッシュ会長。同社のCTO(最高技術責任者)も務める。(写真:永川智子)
フォルクマル・デナー(Volkmar Denner)氏
1956年11月生まれ。パワー半導体、集積回路、エンジン開発などの部門を経て、03年にオートモーティブエレクトロニクス部門プレジデントに就任。06年に取締役。12年からボッシュ会長。同社のCTO(最高技術責任者)も務める。(写真:永川智子)

IoT(モノのインターネット)、AI(人口知能)といったデジタル技術の進化が様々な産業の事業構造に変化を迫っています。加えて、ドイツの自動車業界では目下、ディーゼル規制の動きが広がっています。こうした事業環境の変化は、ボッシュのビジネスのあり方をどう変えていきますか。

フォルクマル・デナーCEO(以下、デナー):創業130年を超えるボッシュの歴史の中でも、今はかつてない変化の時期であることは疑いようがありません。ビジネス環境、そして組織自体が、デジタル化によって大きな変化を迎えています。

 ご指摘の通り、その変化はモビリティ(移動手段)の世界で顕著です。我々はディーゼルエンジンの未来について決して悲観していませんが、一方でEV(電気自動車)の市場が急速に立ち上がっているのも事実です。組織として、この変化に対応していく必要があります。

 では、その変化の本質とは何でしょうか。我々が特にインパクトを受けると考えているのが、「コネクテッド(インターネットに常時接続されている)」世界の広がりです。あらゆるセンサーや装置がネットワークにつながれば、ボッシュのビジネスモデルを根本から見直さざるを得ません。これまで築き上げてきた資産を守っている時代ではもはやないのです。

ドイツの自動車メーカー各社が、単にクルマを作り、販売する企業から、様々なサービスも含めたモビリティ(移動手段)を提供する企業へと転換しようとしているように、部品メーカーもソリューション企業に転換する必要があるということでしょうか。

デナー:これまでのボッシュの製品の多くは、自動車メーカーなどの顧客企業に対して、優れた製品を開発し、売ることで完結するシンプルなビジネスモデルでした。だからこそ、我々は製品開発に力を注ぎ、その技術力を高めるために経営資源を注いできました。

 しかし、コネクテッドの時代には、ボッシュと顧客企業の関係は製品を売っておしまい、ではありません。顧客に提供した製品がネットに常時接続されるようになれば、販売した後も顧客にサービスを提供し続ける必要があります。こうしたビジネスは、従来のボッシュでは経験してこなかったものです。

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