コダックやノキアにならないために

ダイムラーは、商用バンの中に宅配ロッカーのような機器を設置し、バンの所有者である職人が注文した部品や資材などの在庫を、夜間に補充するサービスの実証実験を進めている(写真:永川智子)
ダイムラーは、商用バンの中に宅配ロッカーのような機器を設置し、バンの所有者である職人が注文した部品や資材などの在庫を、夜間に補充するサービスの実証実験を進めている(写真:永川智子)

 排ガス不正で揺れるドイツの自動車業界も、こうしたデジタル革命の波に乗り遅れまいと、したたかに動き始めている。例えば、VWグループ傘下のアウディは、条件付きながら運転手がハンドルから手を離した状態で運転が可能な「レベル3」の機能を搭載した新型車を、世界に先駆けて今秋投入する。

 さらに、「カーメーカー」から「モビリティ企業」への脱皮に向けた取り組みも加速している。目指すのは、モノとしてクルマを開発・生産するだけではなく、「モビリティ=移動手段」を提供するサービスも自ら提供する会社への変身だ。

 興味深い取り組みを、ダイムラーが行っている。ダイムラーの商用車部門メルセデス・ベンツ・バンズが進める次世代モビリティプロジェクト「アドバンス」では、商用バンのオーナー向けの宅配サービスを実証実験中だ。

 ドイツ国内には配管工事や住宅補修などに従事する職人などが約540万人いるとされ、その多くが個人事業主として商用バンを所有している。ダイムラーの商用車部門にとっても重要な顧客層で、こうした職人向けに商用バンを売るだけではなく、部品メーカーなどと協力して、部品や資材の宅配サービスも提供することを目指している。

 ダイムラーが販売する商用バンの中に、宅配ロッカーのような装置を設置。バンの所有者がスマートフォンで必要な部品を注文すると、配達員が夜間に自宅に止めてあるバンを訪れ、スマートフォンでバンのドアを勝手に解錠して、部品を補充する。現在、実証実験を重ねており、数年内の事業化を目指している。

 プロジェクトが立ち上がったのは、排ガス不正が発覚したのとほぼ同時期の約2年前に遡る。当時、ダイムラー本社では幹部らの間で、「コダックやノキアにならないためには、我々は何をすればいいのか」という激論が繰り広げられていた。急速に進むデジタル化に対応できなければ、変化を見誤り主力事業を失った米コダックやフィンランドのノキアのようになってしまうという、危機感からだった。

 同様の危機感は、自動車部品メーカーにも広がっている。ボッシュのフォルクマル・デナーCEO(最高経営責任者)は、「自動車メーカーに部品を供給する時代は、近い将来、終焉する」と言う。

 排ガス不正問題は、今もドイツ自動車業界を覆い、収束する気配はまだない。そして、それに端を発した政府や自治体によるディーゼル規制に向けた動きは強まる一方だ。それは、ドイツ自動車業界のEV(電気自動車)化の流れを加速させると同時に、既存のビジネスモデルから変われなければ生き残れないという覚悟を芽生えさせている。

 ドイツのデジタルシフトが自動車業界から他の産業まで広がり、自動車業界自身も排ガス不正問題をバネに構造転換を加速したら、ドイツ企業は日本勢にとってさらに手強い相手となる可能性がある。