アディダスの革新を支えたSAPとシーメンス
スポーツ用品メーカーであるアディダスが、こうしたデジタル技術をフル活用したビジネスモデルの革新が可能になったのは、インダストリー4.0の“黒子”とも言える独大手2社の存在がある。ソフトウエア大手SAPと、重電大手シーメンスだ。

SAPとシーメンスは現在、ドイツ企業の時価総額で1位と2位。排ガス不正が発覚して逆風が吹く独フォルクスワーゲン(VW)に替わってドイツ産業界を牽引する存在となっている。
トヨタ自動車と競い合うように、年間販売台数1000万台を超える世界最大級の自動車グループとなったVWは、排ガス不正が発覚するまでドイツ企業の強さの象徴だった。異なる車種で多くの部品を共通化するためのプラットフォーム戦略では、いち早くモジュール(部品の集まり)単位でクルマを開発・生産する取り組みを本格化。傘下のアウディやポルシェ、セアトといった複数の自動車ブランドで、横断的にモジュールを活用するクルマ作りを軌道に乗せた。そのVWを、トヨタは徹底的にベンチマークしてきた。
排ガス不正以降、VWのみならず、ディーゼル技術に大きく依存してきたドイツの自動車業界全体が窮地に立たされている。ただし、この自動車業界が培ってきた強さの全てが、排ガス不正で失われるわけではない。その1つが、紛れもないデジタル技術を生かしたモノ作りだ。
実は、VWをはじめとするドイツの自動車業界が進めてきたモジュール戦略は、コンピューター上で設計や生産をシミュレーションする技術ノウハウが欠かせない。つまり、モノ作りのモジュール化はデジタル技術の積極導入が前提となっており、そのノウハウが今、自動車業界から他の業界へと広がってきている。インダストリー4.0は、こうした自動車業界で培われたデジタル技術を、他の産業に応用していく取り組みだとも言える。
そして、ドイツでデジタル化による新事業創造を産業横断的に支援しているのが、シーメンスでありSAPである。シーメンスは、アディダスのスピードファクトリーの立ち上げに深く関与した。スピードファクトリーでの新たな靴作りは、まさに自動車業界が進めてきた「モジュール化」と同様のコンセプトで進められた。靴のソール部分やアッパー部分などをモジュールとして捉え直し、それぞれをコンピューター上で設計して組み合わせて製品を開発・生産していく考え方だ。
そして、SAPは顧客自身が好みのデザインに靴をカスタマイズできるサービス「mi adidas(マイアディダス)」のシステムを裏方として支えている。マイアディダスの仕組みにスピードファクトリーが接続されれば、顧客ごとの“特注品”の生産を大規模に展開する、いわゆるマス・カスタマイゼーションの実現も視野に入る。
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