最後に、カネボウ破綻劇で、一番つらかったことというと、何が頭に浮かびますか。

石橋:(10秒ほど沈黙)社員の生活が本当に守れるんか、という葛藤が一番つらかったですよね。

いろいろな会社があっていい

人事部長の時代ですか。

石橋:破綻前でしたが、「会社更正法の適用でもなんでも、早くしよう」と上司たちにかけあったことがあるんです。その時にこう言われた。「会社って、ここだからこそ生きているやつもいっぱいいるんだ。もし潰したら、そいつらに対して、どう責任を取るんだよ」と。

 確かに、会社が潰れれば信用を失い、うまく再生できないかもしれない。その時に、どこかで拾ってもらえる優秀な人材もいるが、カネボウでしか働き口がなさそうな人もいる。これを言われて「うーん」と思って、腰が引けましたね。

誰に言われたんですか。

石橋:上司。でも、後で気がついたんですよ、産業再生機構に入って。実は、会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけなんです。儲かっている事業だったら、売却されても従業員の雇用は守られるんです。その頃、そこまで頭が回らなかった。

 でも当時は、「確かになあ」と。僕の出身である化粧品事業では、美容部員の優秀だった子たちは、外資系の化粧品会社とかに引っ張られるけど、そうじゃない子たちもいっぱいいるじゃないですか。その子だって、その収入で家族が生活していることもありますよね。「その家族の生活をお前は守ってやれるのか」って言われた時は、反論できなかったですね。

 でも、それで腰が引けた自分が情けなかったし、つらかった。だからこそ、再生機構に入って以降は、社員の雇用だけは絶対守るというスタンスで今日まで来ました。ありがたいことにリストラはクラシエになって一度もないんで、信念を全うできているから幸せだと思っています。

その言葉を言った上司は、自分の保身だった?

石橋:違います。本心でそう思っていた。「そのリスクをお前は負っていけるんか」って。僕はまだ40代半ばで、重たいなあ、と。人事が長かったから、走馬灯のように何千人の知ってる顔が浮かぶ。「あいつなんか無理だろうなあ」とか。「でも、あいつ、今年中学生になる子供がいるのに、生活どうなるんやろ」とか。

大家族主義だからこその悩みでもありますね。クラシエでも、その思いは続いている。

石橋:一緒です。でも、うちだけじゃなくて、東芝さんもそうだし、日本の伝統ある企業って、昔はみんなそうだったんじゃないでしょうか。だから、会社に骨を埋めようというギブ・アンド・テークみたいな関係が成立していた。今は、会社も雇用を守りきれなくなっているし、従業員側も「もっといいところがあったら移ろう」という関係が一般化していて、大家族的なものが日本から少なくなってきている。でも、僕は大家族主義的なものが好きでこの会社に入ったし、いまクラシエはそんなに大きな会社ではないけど、その精神は守りたいと思ってやっていますけどね。

「若い人の受け皿として、いろんな会社があっていい。みんな同じではつまらない」(石橋康哉・クラシエホールディングス社長、写真=村田和聡)

それは会社が大きくなってもできる?

石橋:できると思っている。それは規模じゃない、経営者の考え方だと思うんです。甘やかさず、家族だから言える厳しい事を指摘してチームとして勝つ。家族主義的会社を全否定することはないと思う。

 いろんな形態の会社があっていいじゃないですか。アメリカ合理主義を生かして成功した企業もいっぱいあるから、個人主義的な評価の中で自分を成長させたい人はそういう会社に行けばいいと思うんです。会社は受け皿なわけですから、いろんな考え方があった方がいい。みんな同じだったらつまんないもん。

若い人も会社を選べるし。

石橋:ねえ。うちはこんな規模ですけど、こんなことを目指しているとフラッグを掲げる。

それを見て、思いが合った人たちが集まる。

石橋:そうそう。その企業の価値に賛同する人が集まってくれば、戦いようがあると思うんですね。

クラシエというのは、そういう意味で、チームで戦うのがいいという人が集まる原点に戻ろうとしているわけですか。

石橋:それが喜びになるような子たちが集まってきてくれているんだと思います。それが、収益力が回復してきた最大のポイントだと思って、これからもその旗を掲げ続けようと思っています。