MRIを露天で飛ばすイメージ

宮崎で最初にリニアの技術や車両を見て、どんな印象を持たれましたか。

寺井:やっぱり超電導の技術が実用化のレベルに達しないと絶対無理だな、というのはありました。昔の文献なんかに出ているんですけど、ドイツでも超電導のリニアモーターというのはやっていたんですが、同じように超電導磁石が完成できないと非常に難しいというのがあって、早い段階で諦めているんですね。

 確かにその通りで、超電導というのが一番のキーテクノロジーで、やっぱり超電導の技術がきちんと使えるようになるレベルに上がらないとだめだと。なぜ難しいかというと、今、超電導の一般的な応用の例はMRIです。病院で体の輪切り(の映像)を撮影する。あれは、病院って非常に環境のいい、静かで、振動のないところで使うのが一般的なんですけど、超電導リニアって乗り物に使いますので真逆の環境なんですね。

 振動が多いし、ほこりも入ってくる。雨は降るわ、風も吹くわで条件が悪い。一番難しいところに使う中で、超電導がきちんと使えるか、安定的に使えるかということが必須条件だなというのはよく分かりました。

30年前は試行錯誤であり、乗り越えるべきハードルがあったと思うんですけれど、その後、どの頃から実用化できると確信しましたか。

寺井:鉄道総研に2年間いて、90年にJR東海に復帰したんですね。そして超電導の開発担当になったんです。だから、まずはクエンチ現象を克服しなければと。ただ、クエンチ現象って割と早く、どうすればいいかだいたい分かったんですよ。

そうなんですか。

寺井:ただ、そうは言っても超電導って液体ヘリウムで冷やしますので、ヘリウムをちゃんと保持しなければならない。そのためには冷凍機を使うわけです。放っておくと液体ヘリウムは蒸発していきます。かなり高性能な魔法瓶に超電導コイルが収納されているんですけれども、少しずつ熱が入ってくるので、徐々に温度が上がっていくんです。そうすると液体ヘリウムが蒸発しちゃう。それを防ぐために車載冷凍機を積んでいる。だから、安定した小型の冷凍機を開発して、それを超電導車両に載せました。

 そうしないと、1日に何回も液体ヘリウムを補充しなきゃいけない。そうなると、新幹線では使えません。昔のSLと同じで、石炭を補給して、水を補給して走らせますが、それと同じやり方になっちゃう。

数々の技術的な難関を突破してきた。

寺井:まあ、新幹線で超電導技術を使うためには、長い開発期間が必要でしたね。90年からスタートしたけれど、97年に山梨に建設された(実験線の)先行区間は18kmと短い区間でのスタートでした。そのとき、ようやく我々が開発した超電導の磁石で走行し始めたんです。

 97年12月には目標の時速550kmを達成して、そのとき「これは何とか使えるようになるかな」という自信が出てきました。設計通りの性能が出たという意味でよかったと思いますし、ちゃんと冷凍機も動きましたし、超電導磁石でもヘリウムが蒸発しない状態で使えることが分かったので。

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