高速鉄道にバイパスは必要か

やはり、リニアが完成後の東海道新幹線の需要が気になります。

宇野:のぞみのお客さんは、かなりの方がリニアへ行かれる可能性があるなと思います。だから、そういう面では、東海道新幹線の活用可能性が高まるんです。今、静岡ですと、1時間にひかりが1本停車ですけど、増やせることは間違いないでしょうね。そういう意味ではリニアの沿線だけじゃなくて、静岡にとっても大変メリットがある。

 ただ名古屋開業のとき、のぞみの本数をどこまで変えられるか、何とも言い難いところがありますね。大阪まで行かれる方は、乗り換えないで真っすぐ行かれるという方もおられるでしょう。名古屋までの開業の場合、リニアも1時間に5本程度という形で、予測としては少し抑えめに考えている。それが大阪になったときに、どう列車を仕立てるかという、そこだと思います。

そもそも鉄道にバイパスって必要なんでしょうか。

宇野:世界一の輸送密度がある東海道新幹線だから、必要性がすごく出てくると私は思いますけどね。ほかの新幹線もそうですけど、同じ区間で「もう1本いる」というニーズはなかなかないと思います。使い込まれていると、そういう中で大規模改修のような形で、延命策みたいな話は出てくる。やっぱりいろいろな設備は年を取りますので。そうすると、やはりバイパスを造れる状況にあるので、やっぱり造ると。

 JR東海は31年前に発足しました。最初の3~4カ月のときに会社の将来を考えて、東海道新幹線が当時はまだ輸送的にちょっと低い状態でしたから、やっぱり「新しいバイパスの実現に取り組む」というのが会社の命題だということで、リニア対策本部を作って、葛西(敬之・名誉会長)が本部長になって、ここから始めた話です。本当にそのころと考え方はぶれてなくて、ずっと一緒だと思います。

葛西さんは相当思い入れが強い。

宇野:JR東海という会社の収益構造は、鉄道収益の90%ぐらいが新幹線で、当時から構造物の老朽化という話があるし、災害での危険分散の話もあるし、そういうことを考えると、やっぱり2本持っているのが、究極の目指すべき姿だろうということでした。実際、そういう方向に進んできたというか、進めてきたというか……。東海道新幹線をずっと育ててきたことで、自力でできる体力がついたのが大きな要因ではありますけど。

リニアができると、今はできないような東海道新幹線の老朽化対策をするのですか。

宇野:東海道新幹線の老朽劣化対策は、30年前から会社の大きなテーマでした。学者にも入っていただき、いろいろな角度から検討してきました。小牧に研究施設を設け、専門的な研究開発グループもつくりました。その1つの成果が、今進めている大規模改修です。いくつかステージがありますが、構造物を完全に取り換えることはなく、延命していくことが可能ではないか、というのが1つの方向です。鉄橋は(走行の)繰り返しの疲労で劣化をする可能性があるので、ずいぶん心配したわけです。けれど、これもある幅の中に収まっている。取り換えの必要性までは出てこない、という話があります。ただ年を取っていくのは間違いないので。

リニアができたら、やっぱり大規模改修をやるということですか。

宇野:リニアができても東海道新幹線は大事だし、できるだけ働いてもらう必要があるので、いま行っている大規模改修は続けていきます。リニアができるころまでに、大規模改修工事が終わっているとしても。

そうすると、バイパスを造るという意味がよく分からなくなります。リニアを作って大規模改修をやると言っていましたが、すでに取り替えの必要はなさそうだ、と。新幹線を止めてやる必要はない。

宇野:止めてやることが出ることも心配しながらやってきましたが、この間の技術開発の中では、今の大規模改修の手法を使っていけば、完全な取り換えはまずないのではないか、という状況ではあるんです。

2本あることの強み

いつ、分かったことですか。

宇野:比較的最近ですね。この5年ぐらいじゃないでしょうか。

そうすると、そこでリニアをやめるという議論にはならないのですか。

宇野:1本の糸にぶら下がったクモじゃないけど、やっぱり2本あることの強みというのは(ある)。これだけの輸送のニーズもあるので、やっぱりこれ(リニア)は造るべきだと、目指すべき方向だというのは変わらないんですね。

新しいシステムでもあるリニアの試運転期間はどれぐらいを想定していますか。

宇野:山梨実験線でかなり走り込んでいるので経験はあるわけですが、なるべく時間を取って、試運転をやりたい。1年ぐらい取れれば、それに越したことはないと思います。

そうすると、26年にはほぼ工事を終えることになります。

宇野:構造物なども含めてほぼ造っておきたいと思っています。どこかで工事が残っているということはあるかもしれませんが、限定的なものにはしたい。

期限が結構、迫っている。

宇野:10年は切っていますし、長いと言えば長いのですが、タイトと言えばタイト。用地買収は名古屋の予定地も、ものすごく苦労するかと思っていましたが、思ったよりは進んでいる。あとはトンネル工事。そこを早く進めたいというところですね。

リニアは地震への備えにもなると主張されています。

宇野:そうです。東海道新幹線は地図を見ていただいても分かるように、(リニアの)南の方に下がって走っている。それを(リニアでは)大部分を真っすぐにしますので、そういう面では地震の揺れの予想範囲という話もありますが、かなり(地震の発生可能性が)薄いところを通っている。名古屋などは同じところになりますけど。構造物は、地下は基本的に地震に強いですね。これから造るものなので、しっかりした構造にしますし、バイパス機能は十分発揮できると思います。