リニアは新幹線のライバルではない

今では6000億円近い経常利益をたたき出しています。今度はリニアに挑戦しますが、東海道新幹線がこれだけうまくいっているのに、ある意味で強力なライバルを横に走らせるのはいかがなものかと。

金子:ライバルでは全然ありません。

そうですか。

金子:ほかの会社が走らせればライバルです。私たちが両方を一元的に運営をするので、強力な輸送体系をつくることができる。

 去年、30周年だったので、「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」と、こういう経営理念にしました。それには、いったいどういう形がいいのか。新幹線は磨き上げてきました。その延長線上に超電導リニア、いわゆる中央新幹線を造って、私たちの使命を将来にわたってより強い形にしていくのが私たちの使命だと思っています。

 ですから、今、私たちがやろうとしているのは、変わったことではなくて、本筋のもともと必然的にやるべき課題に挑戦していると思っています。

少し投資家とずれている

時速500キロの高速鉄道がすぐに、しかもコストが安くできるのなら素晴らしいと思います。ですが、9兆円の投資をして、大阪までできるのは早くて20年後です。交通ネットワークがどうなっているか想像もできませんが、それでもやった方がいい?

金子:まず大変なおカネを掛けてやるのはなぜか。私はよくIR(投資家向け広報)のため外国に行くんですが、投資家の皆さんによく聞かれるのは「あなた、9兆円、5.5兆円とか掛けてどうして(リニア新幹線への)投資をやるんですか、もっともうかることはあるんじゃないか」と。投資家はそう聞くんですね。だから私は「いや、そうじゃないんです」と答えます。「これは私たちの会社の使命なんですよ」と。「私たちの会社にとってこれはもうかるか、もうからないかというより、まずやらなければならない課題で、これをきちんとできるかできないかということが問題なんですよ」と。「十分慎重に検証して、これは建設中もきちんと健全経営、安定配当でやりますよ」と。

09年御社が国交省に調査報告書を出していて、年に4200億円の維持や設備更新のコストがかかる。だが、増収分はそこまで届かない。たぶん投資家の方は、「儲からないんじゃないか」という懸念を抱かれるのではないか。

金子:ですから、少し投資家の人たちとずれるところがあるんですが、「いや、私たちはこういう使命を持っている会社だ」と。東海道の大動脈を担っていくという使命です。建設できるまではリニアがありませんから、東海道新幹線と在来線をしっかり修理して、投資もして運営していく。その責任を、言葉を換えて健全経営、安定配当でこれ(リニア)をつくり上げると言っているんですと。

「大阪まで早く作って」

金子:それで先ほどの交通政策審議会では、私が説明しました。これは堅めの数字で、収入はこんなものでしょうと。経費も東海道新幹線をベースに合理的にはじいた数字です。それから、国家プロジェクトである整備新幹線に格上げしていいか決める審議会だったんですが、慎重かつ合理的に計算して、「どうやっても大丈夫ですよ」「あとは私たちがうまくハンドリングしていけば、この投資は全然間違いないですよ、任せてください」と。そこで「JR東海の言う通りじゃないか」と言っていただいたわけです。

それは当時の家田仁委員長(政策研究大学院大学教授)を筆頭とする委員の方。

金子:みんなそう言っていただけて。

でも意見聴取で出てきた堺屋太一さんが、「名古屋までなら大赤字だと」。

金子:「大阪まで早く造らないとだめじゃないか」とか。

そういう方もいらっしゃる。

金子:うん。「大阪まで早く」という議論は本当に多かったです。「名古屋まで造って経営体力を回復するために8年間休む」と言っていましたので、「早くやってよ」と。それは家田先生もそうでした。「早く造った方がいいよね」と。

 私たちもそう思っています。ただ、新幹線と在来線をきちんと運営し、健全経営、安定配当をやっていくことが大前提なので、そうしないとだめでしょうと。そういう範囲で私たちは造るという話をずっとしていたんですね。すると「じゃあ、しょうがないな」「あなたの計画は堅いみたいだからやったらいいじゃないか」ということでした。

3兆円は機構から借りた

「早く造れ」という中で、2年前に安倍晋三首相が財投3兆円を突っ込んで、最大8年前倒しで造ると決めた。これで公的なプロジェクトの色が強まった。一民間企業としてやる分には国民は文句を言えないし、投資家も説明を聞いて投資判断するしかない。ただ、財投だから、もうちょっと国民に計画が周知されるべきではないか。

金子:そこはよく理解していただきたいところがあるんですが、初めから国家的なプロジェクトです。東海道新幹線だって国家的なインフラです。私たちはそれは初めから担っているんです。これを国鉄改革のときに、「民間企業でちゃんとやっていけ」と。「もう政府はカネを出さないぞ」「民間会社の責任でちゃんと立ってやっていけ」ということが国鉄改革でした。

 そこのフレームは中央新幹線でもまったく変わっていません。「早く大阪までやれ」という議論があって、どうやったらできるか政府でもご検討いただきました。「JR東海でも考えろ」と言われたんですが、いい案が出ませんでした。そういう時期が続いたんですが、財投を借りたわけじゃありません。

え?

金子:財投を活用して、鉄道・運輸機構(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)から借りたんです。私たちの条件は1つです。経営の自主性、独立を損なわない。民間会社としてやるんだから、政府からお借りするのはダメです、と。鉄道・運輸機構から、民間の金融機関から借りるのと同じ条件で借りたいと思います、と。何か特別な制約があるのはだめです、と。
 

機構には貸した責任がある

金子:なぜかというと、経営というのは、いつ何におカネを使うかを自分で決めることで安定しているんですね。誰かに、「この時期にこれだけおカネを使え」と言われて、それを聞かなくちゃいけないとか、経営の自主性がなくなっちゃって、昔の国鉄に戻っちゃうんです。

 国のおカネが入って、国の言うことを聞かなくてはいけないというものにちょっとでもなるなら、お話には乗れませんと散々申し上げて、「それは分かった」と。「経営の独立、投資の自主性ついては、それはまったくその通りでいい」となった。

 ただ、こういう仕組みを使うことによって、私たちは借りたおカネは必ず返しますが、そこは返せるか、返せないか、私たちの事業をよく見て、あなたが判断してくれ、と。

その「あなた」というのは政府? 機構?

金子:政府だったり機構(だったり)、どっちでもいいんですが、ちゃんと返さないのではないか、貸すのが心配だったら貸さなきゃいい。今の経営体力を見て、これならば返せるだろうと。あるいはリニア計画を見て、この事業は成り立つんだろうということで(貸す)。

 30年据え置きの10年均等払いみたいだから、ちゃんと大阪まで開業する。少し余裕もある形にして、金利も非常に安いし、これならば返せるんだろうという、これは契約ですから。向こうも納得して、私たちも納得して借りた。そこで、事業の性格が変わったことはまったくないというのが私たちの考えです。

でも「向こう」というのは、政府かあるいは機構ですけれど、そうした投資判断ができる能力がないので。

金子:いやいや、それは向こうに失礼な話です。貸した方は貸した責任があるんですね。私たちには借りた責任があります。それは銀行と私たちとの関係も一緒です。合意して借りて、私たちは「こういう条件で借りた以上必ず返します」という約束をしているんです。