今もう6000億円近い利益が上がる経営体なので、JRグループの北海道や四国といった厳しい経営状態の会社を救い、鉄道ネットワークを再構築する道はないんでしょうか。

連携に手を出すなんて、愚問を発しないでもらいたい

葛西:鉄道は19世紀は陸の王者だったわけ。ところが、20世紀になって競争相手がいっぱい出てきました。高速道路の建設ネットワークを見てごらん。本当に東海道新幹線ができたときは、名神しかなかったんですよ。今もう日本中に道路ができている。航空網もできている。そういう状況の中で鉄道が道路に転換していく部分というのが増えてくる。当然なんですよね。それを嫌だという地元の人たちの意見もある。

 そういうのにずっと付き合いながら、全国を1本に戻そうなんていうことにはなりませんよね。経済原則に反するから。だから我々はやっぱり、分割をして、与えられた我々の使命、これを徹底的に果たすということです。国家の大動脈で、人口の6割が住んでおり、GDPの6割がここで生み出される。そこの部分がいかに健全にこれからも機能し続けるかというために、我々は全力を挙げるということですよね。

 現に、今1260人をリニアの建設に充てているわけですよ。米国にも(人を)出していますが、我々って国鉄時代と違って、人が余っていませんから。効率的に仕事をする前提でフル稼働でやっています。それをやって初めて、工事が予定通り進むんですから、ここのところ(他社との提携)に手を出す気はないのかなんていう愚問を、発しないでもらいたいですね。

しかし、リニアも他の鉄道網も、まったく違う事業ではないし、選択肢としてはあり得るのでは。

葛西:何が? だって、それぞれが会社の使命が決まっているんだから。(JR各社が)それぞれ定義されていまして、例えば東日本は首都圏の鉄道を強化する。それは東海道新幹線にとってプラスですよね。

 我々は12の在来線を持っています。全部赤字です、東海道本線も含めて。これを維持しながら、東海道新幹線を磨き上げていく。でも、もうぎりぎりのキャパシティーになったので、バイパスを造って、さらにゆとりを作っていくと。東海道新幹線のお客さんが切符を取れない。立って乗らなくちゃいけない。金曜日の夜なんて、立っていますよ。

そうですか。

葛西:だからそういう状況を緩和して、快適な輸送を21世紀も続けるということが我々の使命ですよね。まず、我々の使命を果たしきることが大事だと思うんですよ。その上でさらにゆとりがあるというのが、20年先になるかもしれないけど、その時には何を考えるかだよね。

葛西さんは、もう一度、陸の王者を取り戻そうとしている?

葛西:いや、私、そうは思ってないですけどね。要するに19世紀、鉄道は万能の輸送機関だったわけ。でも今は万能ではなくて、ごく限られた条件のあるところで機能しているわけですよ。東京~大阪間というのは鉄道輸送にとって、最も機能の発揮しやすい分野。だからここは鉄道だと。

 米国という国は大きな国だから、要するに遠くは飛行機、それから中距離、近距離はこれは高速道路となっているんですよ。しかし、渋滞して、心筋梗塞みたいになっているのが、北東回廊なんですよ。ワシントン~ニューヨーク間。

 だからここには第3のバイパス、それは何だといったら、高速鉄道でもいいが、できればリニアを北東回廊には造ったらいいと思うんですね。それはだから、万能の輸送機関じゃなくて、すべてがそろっている中で、それでもなおかつ交通が渋滞しているところのいわばバイパスですよね。そういうものとして鉄道はこれから使われていくんですよ。先進国においては。

それが鉄道の21世紀の使命になると。

葛西:そうです。21世紀は各国によって鉄道の役割が違うんですよ。アフリカ、インド、欧州、米国、日本、路線によっても違うんですね。東京~大阪間というのは世界でもユニークな地域ですよね。やっぱりそれと同じユニークさを持っているのは、ワシントン~ニューヨーク~ボストンでしょうかね。そこは同じような形になるんですよ。そうでないところはまた別で、インドは今、JR東日本がやっていますよね。アフリカはまだこれからですよね。ヨーロッパは19世紀の鉄道を生かしながら、20世紀と19世紀が同居するという形の鉄道の輸送ですよね。

 だけど日本の場合はそうじゃなくて、19世紀の鉄道も、20世紀の鉄道も、それの接続をよくすることによって、ネットワークを作っていくというのが今までのやり方。リニアもその延長線上に、21世紀のものが入ってくるということですかね。

リニアが完成するまで生きていないんじゃないか

リニアの完成で、葛西さんの長い鉄道マン人生は、やろうとしてきたことがほぼすべて実現する。

葛西:僕はリニアが完成するまで生きてないんじゃないかと……。

いやいや、そんなことはないでしょう。

葛西:僕も今年78歳ですから、完成するのが10年先で88歳でしょう。だいたい平均寿命を超えちゃうので、僕は。

88歳はもちろん、葛西さんは大阪開業まで生きているでしょう。

葛西:まあ、その都度、僕は目の前にある問題の大切なことにベストを尽くすということを積み重ねてきましたので、一期一会みたいなものできています。これからもだからリニアは大事だと思うし、新幹線も大事だと思うし、あるいは海外展開も日米同盟を強化するという意味で大事だと思いますよね。いろいろやりますが、しかし、それは明日終わるかもしれないと。それでもいいやと思ってやるしかないよね。

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