9兆円をかけるリニアプロジェクトに暗雲が垂れ込めている。詳しくは日経ビジネス8月20日号で21ページにわたる特集記事としてレポートしているが、昨年から表面化した談合問題は工事の先行きを暗示する。また、安倍首相の発言で財投3兆円が投じられたが、大親友・葛西敬之名誉会長への「お友だち融資」ではないのか――。様々な疑問を、リニア計画を30年にわたって引っ張ってきた葛西名誉会長に聞こうとしたところ、JR東海から断りの電話が入った。そこで休日、自宅を直撃する。「それは僕でないと語れないな」。そうして、翌日の名誉会長インタビューが実現した。そのすべてをここに披露する。

 昨日は自宅に押しかけて、すみませんでした。

葛西:いやいや、まあ、昭和15(1940)年から住んでいましてね。あそこは、もう昔は本当に田舎でした。

葛西敬之(かさい・よしゆき)氏
東海旅客鉄道名誉会長。1940年生まれ。63年東京大学法学部卒、日本国有鉄道入社。69年米ウィスコンシン大学経済学修士号取得。86年職員局次長。「国鉄改革3人組」の一人。87年JR東海発足とともに取締役に就任。95年社長就任。2004年会長、14年名誉会長。今年、28年ぶりに代表権が外れる(写真:高木茂樹)

昨日も、その場でも話しましたが、なぜ、リニアに9兆円もかけてのめり込んできたのか。

葛西:国鉄の分割民営で、それぞれ(の会社)に使命があり、うちは「東海道新幹線会社」ということですよね。

 それで、東海道新幹線の開業時点での状況を見ると、当時の土木技術の常識では10年は絶対に大丈夫だけど、20年経つと取り換えが起こるかもしれないと、こういう話がありました。ローカル線の赤字を埋める担い手としては、技術が陳腐化しつつあった。さらに言えば、空港が建設中で、競争先は能力を拡大しつつある。

 しかし、(東海道新幹線は)輸送能力が限界に達している。輸送能力を増やすためにはどうしたらいいのか。ならばバイパスを造るしかないと。すでに国の法律で決まっている中央新幹線(リニア)があり、東海道新幹線と旅客流動が同じなので、一元経営しなければならない。

難しいのはカネ。借金返済会社だったから

鉄道ネットワークというのは、儲かる大動脈があって、それで儲からないところを支えるというものでは。東海道新幹線が儲かったときに、鉄道ネットワークとしてもう1回考えるという方向性もあったのかなと。新幹線が二重化しても、人口減少時代で、しかもビジネス上の会議というのもネットに移ってきている。

葛西:そんなの30年前から言われているけど、そうなってないんだよ。

でも人口は実際に減少してきている。

葛西:人口はだけど、世界の人口動態がどう変わるかということ。日本人だけの人口で測るべきではない。インバウンドが今増えている。日本で定住人口も増えていく可能性がありますね。すべてのインフラが非常に整っている東京~大阪間の地域というのは、日本経済のいわば頭脳であり、体幹部であると。

それは東海道新幹線をここまで強くしてきたのだから、その更新でいいのでは。

葛西:東海道新幹線は1時間15本走っているんです。17本が限界だから、そうするとあと2本ですよ。技術や設備を強化し、それからスペックを統一して、効率的な運用をした結果、そこまできたからね。もうこれ限界なんだよね。

 この次は、やっぱりもう1つバイパスがいるんですよね。東京~名古屋間、名古屋~大阪間、このバイパスがどうしてもいる。「このバイパスはいらない」という議論はないですよね。

でもこれだけ東海道新幹線が活躍していると、それで、かなり満足感を得ている人も多い。

葛西:いや、今はいいですよ。しかし、まだこれから世界の人口は増えますよね。アジアの人口も増えますよね。そして日本に定住したいという人の数も増えていきますね。東京、名古屋、大阪を結ぶ使命というのは大きくなりますね。使命は行き止まりというのはないんですよ。

 常に今プラス一定のアローアンス(余裕)を確保しなくちゃいけないと。バイパスを造らないで、何を造ったらいいと思うの?

東海道新幹線の強化。

葛西:東海道新幹線と同じものを造るということになると、リニアに比べるとはるかに今度は用地買収とか難しくなりますよね。だからその意味で言うと、リニアというのは非常に新しい時代に即した効率性と高速性と、両方を持ったテクノロジーです。ですから東海道新幹線はファンダメンタルなネットワークの基本ですよね。

 しかしリニアはそのバイパスとして、東京~名古屋、東京~大阪の人間をいかに引き取るか、受け止めるかと。

リニアは難しいということは、最初からお感じになっていた?

葛西:難しいのはおカネ。借金が多かったでしょう。だから我々は国鉄の借金の相当部分を引き取ったわけなんです。最初は借金を返す会社だったの。

 新幹線でもうけて、借金を返す会社。ところが、それが借金を返し続けて、金利負担が減ってきた。ゆとりができたので、自分のおカネでリニアを造りましょう、という話が視野に入ってきたと。つまり自分の、本来の使命をさらに強く達成するために使おうということに決めたわけですね。

そのころ債務も3兆円、一時は2兆円ぐらいまで減った。

葛西:そうですね。

完全民営化もされた。何かタイミングだったと。

葛西:そうですね。

自分たちでやるんだと決めて、ただおカネは相当かかると思った。

葛西:カネは当時の試算で、東京~名古屋間が5.5兆円だと言っていましたね。それから名古屋~大阪間が3.5兆円。

それは今も変わらない数字ですか。名古屋までの5.5兆円は、増えることはない?

葛西:今も基本的には変わらない。いろいろやっているうちに増えたり減ったりしますから、最終的にぴったりそうなるということじゃない。大局的な想定です。