「僕の持論はPMIは『ポスト・マージャー・インテグレーション』ではなく、『プレ・マージャー・インテグレーション』ということ。つまり買収前のリサーチをどれだけ精緻にして、有利な条件交渉ができるかが重要だ」

 「買収交渉ではまず、現地でビジネスを担って、成功してきた人材が辞めずに組織に残るかどうかが重要だ。加えて今回は(SABミラーによる)事業の切り離しなので、ブランド管理や投資といった機能をきちんとできるような体制を残すこと。こうしたことをやって、1年目から独立して収益を上げられるようにする。買収後に日本から人を送って、うまくいくかいかないかとやっているようでは完全に遅い」

 一般に企業買収は、対象企業の現在価値よりも高く、プレミアム(上乗せ分)を払うことになる。今回の対象4社の売上高は合計で900億円、営業利益は140億円と高収益だが、アサヒは買収後にさらに収益性を高めなけば、投資額の元は取れない。

過去とは桁違いの大型案件に挑む
●アサヒグループホールディングスの主な海外M&A

「ドライ」で相乗効果狙う

 今回の懸念材料は、地盤がビール市場の成長が見込みづらい、成熟した欧州市場だということだ。どんな利益成長のストーリーを描けるのだろうか。

 「ボリュームの成長がない市場でも売上高や利益を上げることは可能だ。商品の組み合わせによる粗利の改善や高付加価値商品の開発、コスト構造の改革などを組み合わせることで実現できる。もう一段進んで、我々の中核である『スーパードライ』を彼らの販路に乗せて売ることでブランドのグローバル化も進める。現在世界で800万ケース(1ケースは大瓶20本換算)売っているが、我々がプレミアムブランドの充実したポートフォリオを持つ会社になれば、様々な戦略が打てる」

 スーパードライは海外で最も売れている日本のブランドだが、その量はまだ少ない。グローバルブランドと言えるのは、「ハイネケン」「カールスバーグ」など、長い海外開拓の歴史を持つ、数少ないブランドのみだ。スーパードライの挑戦のハードルは高い。

 3月末に小路明善氏が事業会社、アサヒビール社長から昇格。泉谷氏の後を引き継いで、持ち株会社の社長に就いた。小路社長はスーパードライの世界展開について「画一的なマーケティングをするつもりはない。培ってきた品質を担保するのは当然だが、エリアごとのマーケットのニーズに合わせた価値を提供することが重要だ」と話す。

 マレーシアなどではカールスバーグと販売提携しており、緩やかなネットワークも柔軟に広げていく構想だ。

 一方、スーパードライの金城湯池である日本市場に対し、ABインベブが狙いを定めるのではとの観測もある。

 「ABインベブのこれまでの手法や、ビールの巨大市場で本格的に手を付けていないのが、日本とベトナムぐらいだということを考えれば、日本が狙われる可能性は十分にある。買収されるリスクを避けるためには、我々が代替性なきアイデンティティーをどのように作り上げていくかが重要だ」

 「国内市場は小さなパイを食い合っている状態だが、グローバルでどのようなポジションを取るかが議論されるべき段階だ。国内で抜いた抜かれたをやっている時代じゃない」

 国内トップの高収益企業、アサヒ。ABインベブが狙いを定める可能性もある「食うか食われるか」の世界のビール戦争で、アサヒの欧州での買収には、「攻めが最大の防御」という発想もある。

[日経ビジネス2016年4月11日号特集「ビールM&A最終決戦」から再録]