官僚支配が演劇をダメにする

「異国の丘」主演の石丸幹二氏(左)を指導 (写真:清水 盟貴)

 浅利の願いは実にシンプルだ。あらゆる観客にもっと演劇を楽しんでほしい。だが、それを阻むものは、すべて断固として戦うべき“敵”となる。

 敵の1つが文化行政を司る官僚だ。浅利は、文部科学省が管轄する特殊法人である「日本芸術文化振興会」の民営化を積極的に主張している。

 この振興会は、歌舞伎、能楽などの劇場である東京・三宅坂の「国立劇場」を運営している。同時にオペラ、バレエ、演劇用に作られた東京・初台の「新国立劇場」も、財団法人新国立劇場運営財団を通じて、間接的に管理している。

 浅利によれば、新国立運営財団は、常勤の3理事のうち2人が文部科学省からの天下り役人だ。劇場運営の基本は制作、営業、技術だが、その中枢を現場体験が全くない“お役人”が担っている。「そんな人間に劇場運営を任せてうまくいくわけがない」と指摘し、返す刀で、新国立で演劇活動をする劇団に対する助成金の出し方や、その制作の収支に関しても不明瞭な点が多いとバッサリ切り捨てる。

 財団には28人の総務部員がいるが、これも文科省の出身者で、年間300回の公演と、150人のスタッフを管理するためだけに働いていると糾弾する。

 「四季では、800人の劇団員が全国で年間2200回もの公演を実施しているが、その担当総務部員は12人」という劇団四季の例を引きながら、「この大リストラ時代に何とも優雅な話だ」と皮肉る。

 浅利は、決して国による芸術支援を否定しているのではない。「この面で日本は明らかに諸外国に比べ立ち遅れている」と憂えながらも「だが、そのことと特殊法人の存続問題を結びつけていいとは思わない」と断じる。

 劇団四季は、営業する劇団としても有名だ。全国にファンクラブを組織し、チケットの独自販売チャネルを作ったり、インターネットを使ったオンライン予約をいち早く取り入れるなど、自助努力を重ねて現在の地位を築いた。

 こうした実績を持つ浅利から見ると、官頼みの演劇振興は、まがい物に思えるのだろう。「官僚機構が芸術を、またそれを担う劇団を弱体化させている」と言う浅利には、かつて日本を戦争へと導いた軍事官僚と現在の文科官僚のイメージが重なって見える。

 劇団四季は、10年ぶりのオリジナルミュージカルとなる「異国の丘」を10月14日からスタートする。この作品は、軍部勢力と戦った元首相近衛文麿の息子で、シベリア抑留で客死した近衛文隆の生涯をモチーフにした。初演に向けて精力的な稽古が続く中、演出の総責任者である浅利はこう語る。

 「今回、台本を書いてつくづく思ったのは、この戦争の悲劇は軍事官僚の失敗だったということ。見通しも立たぬまま中途半端に中国大陸に突っ込んでいった、あるいは米国と開戦してしまった軍事官僚に最大の責任がある。目先のことしか見ていない。今の官僚と同じだよね。これはやはり痛烈に告発しなければ。世紀の変わり目を迎えて、我々は前の世紀に何があったかを、しっかり残さなければならない」