(前回から読む)
連載最終回の今回は、「革新志向」の源泉となりうる、7つの視点を紹介したいと思います。それらの視点を基に、社会に内在する課題の解決を考え続けることが、企業の将来の成長エンジンを生み出す原動力につながるのです。

社会的な課題は常に変化します。したがって、将来に向けた課題の解決を考え続けることが、企業の革新性の維持につながります。また、その課題の解決策を考えることが企業の将来の成長エンジンを生み出す原動力になるのです。
もちろん、社会の課題は多岐にわたっています。しかし、その中でも①社会全体への意義が大きい、②業界構造変化に繋がる可能性が大きい、③長期的──という3点を満たす課題解決にチャレンジする企業が求められます。
そして、そのようなチャレンジングな企業が、大きな支持を獲得するのではないでしょうか。以下に革新志向の源泉となりうる、いくつかの視点を提供してみたいと思います。
① 業界の旧弊が持つ非合理の解消
建設業界や不動産デベロッパーなど、業界自体に消費者の目から見た非合理や矛盾が存在しているケースが存在します。何千万円、何億円のマンションを購入するのに、現物が見られない青田売りが大半で、建設の途中で本当に想定される品質でものが作られているのかも不透明、さらに、日本の場合はそれだけの資金を投入して購入した物件の価値が、年数と共に減損してしまいます。これに慣れてしまって問題提起がされないかもしれませんが、消費者の観点からよく考えれば、愕然とするべき非合理だと言えます。
ちなみに日本のこれまでの住宅建設投資の総額が過去40年強で800兆円であるのに対し、現在の住宅価値は300兆円に過ぎません。なんと500兆円が消失している計算となるのです。
この非合理を解消するべく、ITやセンサーなどを活用した建築手法のイノベーションを通じた品質レベルの透明化が進み、これに基づくより客観的な建物価値の算出が可能になれば、中古流通の仕組みなどにブレークスルーが起こせるのではないでしょうか。何十年も同じような売り方やサービスの仕方をしているような業界では、もう一度、消費者の目線で見た不合理が存在しないか検証してみることが求められます。
② バリューチェーンの繋ぎの変更
これまでの生産、物流、流通の繋ぎ方を変えることで、バリューチェーン全体の合理化が可能となります。ヤマト運輸の最新の物流拠点である「サザンゲート」(沖縄県那覇市)はいろいろなメディアで既に報道されているのでご存じの方も多いと思われますが、物流機能の中に製造機能を取り込んでいます。材料が物流基地に届いた段階で最終製品を製造できるため、トータルの物流時間やコストが下がります。これを通じて物流業者であるヤマト運輸は製造部分の付加価値も取り込めるのです。
今まで川下の流通がプライベートブランドを作りメーカー利益を吸い出していましたが、川中にいる物流業者がメーカー利益を取りに行く事例として興味深いものです。これから市場が縮小する中で自分の周辺のバリューチェーンの付加価値の取り合いがおこり、水平方向の業界構造変化をもたらすかもしれません。
③ 外様テクノロジーによる合理化
次に述べるデジタルテクノロジーもそうですが、自社の業界の中で培われた技術の外側にある技術が自分たちの業界に侵入し、業界構造に変化を与えるケースがあります。
例えばセンサーの技術を活用して建設現場などの力仕事を補助する装着型のボディースーツや、化学品メーカーのフィルム技術を活用した水だけでトマトを栽培するようなベンチャー企業も現れています。この技術のおかげで砂漠の真ん中でトマトの栽培ができるようになったそうです。
いずれも日本メーカーが長年にわたって築き上げてきた技術が今になって低生産性の業界に応用されることでオペレーションの在り方、事業モデルの在り方を大幅に変えているものです。他業界の技術を活用して業界構造変化にチャレンジするのも一つの視点だと言えます。
④ デジタルテクノロジーによる合理化
最近よく取り上げられている自動運転技術やソフトウエアは自動車業界を一気に変えると想定されています。デジタル化がもたらす構造変化の典型的な事例です。
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