かつて業界に君臨し、市場が拡大するなかで豊富な資金と独自の技術を持ち、トップブランドとして取引先に強い影響力を行使するなど、すべてを手に入れた企業が没落していく理由の大方は、こうした創業目線の喪失が原因です。

 ノキアを例に挙げてみましょう。

 携帯電話市場の頂点まで一気に駆けあがったノキアは、1990年代に推定で市場全体の利益の90パーセントをあげていました。その地位は今後も揺るぎそうになかったし、実際に次世代のスマートフォンの種をいくつも手掛けていました。

 タッチスクリーンの技術を他社に先駆けて開発し、小型カメラの販売で世界をリードし、音楽配信のノウハウを持ち、携帯電話の無料メールをいち早く提供しました。

 しかし、成長するうちに「過重負荷(オーバーロード)」状態となり、組織の急な複雑化で方向を見失ったせいで、そうした強みを伸ばして次世代携帯電話開発をリードすることができませんでした。その戦略を勧めるエンジニアも社内にはいたのですが。

 なにもチャンスに恵まれなかったり資金が足りなかったりしたわけではありません。ノキアが君臨していたのは史上有数の成長市場で、手元資金もきわめて潤沢でした。しかし、革新の意識を持って未来に投資することはなく、利益の40パーセントを配当に回し、自社株を大量に買い戻すのに資金を使ったのです。

 スマートフォン市場ではわずか数年でアップルやサムスンが台頭し、さらにグーグルも参入してきたため、革新に燃えるイノベーションの手本だったノキアは急激に業績を落とすことになってしまいました。

 「何が原因だったのか?」とインタビューで聞かれた取締役は、競合他社の動向ではなく社内的な要因を挙げ、「行動するのが遅すぎた」とシンプルに結論づけているのです(注6)。

(注6) Kevin J. O'Brian,“Nokia's Success Bred Its Weakness: StiflingBureaucracy Led to Lack of Action on Early Smartphone Innovation,”International Herald Tribune, September 27, 2010.

 成長の危機について研究するなかで、ノキアのような企業は非常に数多くありました。市場地位、ブランド、技術、顧客ベース、豊富な資金など、外面的にはすべてを手に入れているように見えるのに、内部的な戦略を誤ったせいで結局は何もかも失ってしまうのです。

 しかし反対に、外からはまったく望みがないように見えた企業が、内側から「再創業」とも言えるほどの改革をして見事に復活した例も数多くあるのです(詳しくは私たちの著書『創業メンタリティ』をご参照ください)。

 例えば医療サービス企業のダヴィータは、1999年から企業変革に取り組み、倒産も間近かという状況を脱して現在ではアメリカで指折りの業績をあげるまでになっています。この復活劇の立役者になったのが、同年CEO(最高経営責任者)に就任したケント・ティリで、ティリがダヴィータの抱えている問題を洗いざらい公(おおやけ)にしてから、同社の株価は100倍になり(株式分割調整済み)、市場価値はほぼゼロだったのが150億ドルにまで成長しました。16年たった今でもCEOを務めているティリが用いた手法こそ、創業目線で社内の活気をまず取り戻すことでした。

なぜ今、創業目線なのか

 「過重負荷(オーバーロード)」、「失速(ストールアウト)」、「急降下(フリーフオール)」の3つの危機は予期できます。これらの危機を乗りきるいい方法があるということを我々は突き止めました。

 危機を乗りきることは、もちろん死活問題です。平均すると、企業価値が大きく変動するケースの80パーセント以上は、これらの危機に際してどんな行動を取るか(あるいは取らないか)で決まります(注7)。

(注7) 長い歴史を持つ25社の大企業の価値創造を創業までさかのぼって調査した。さらに、企業が各時期に直面した課題と意思決定を特徴づけし、当時企業内で何が起こっていたかと企業のライフステージに応じて大きな価値変動を分類した。その結果わかったのは、株式市場の平均よりも大きい価値変動が起きるのは将来的な利益成長の見込みが急上昇あるいは急降下するときであること、ならびに、こうした評価は業界の変化よりも業界と比較した企業の業績に関係しているということだった(実際、8割以上の価値変動は、市場の成長見込みの上昇や下降と関係なく、業界グループの中で起きていた)。

 危機の克服は死活問題であるだけでなく、かつてないほど緊急の課題になっています。これは業界全体の変化が速くなるなかで、企業のライフサイクルスピードも劇的に上がっているからです。