最初に実行したのは業務の棚卸し。各事業部門・子会社の事務作業を、戦略性が高い業務、重要な通常業務、単純作業の通常業務の3つに色分けさせたのだ。この内、単純作業を新設したBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)センターに移行していくことで効率化を図る狙いだ。
しかし、各部門・子会社は「単純作業」を自ら提示してこない。坂本副社長は「今までやってきた業務を自ら否定するようなことを、サラリーマンは中々出来ない」と苦笑する。
そこで、坂本副社長は先に「人手が足りなくて、やりたくても出来ない業務」を提示させた。「単純作業」で削減した分の人員をリストラせず、「やりたいこと」に振り向けることを確約。事業成長に向けた前向きな改革だというメッセージを打ち出した。
BPOへの業務移管にはもう一つハードルがあった。会計の例外処理の基準など、業務手順がグループ内で統一化されていない事例が多数見つかったのだ。
会計問題がきっかけに
IHIには忘れがたい苦い教訓がある。2007年にコストの見積もりの甘さが原因となって、過年度決算を大幅に下方修正。東京証券取引所から投資家に注意を促す「特設注意市場」に割り当てられる事態になった。

この事件の際にコンプライアンス統括室長を務めていた坂本副社長は内部管理体制の改善に着手。各部門の会計基準がばらばらになっている事態に気付き、本社業務改革を始めるきっかけにもなった。2014年に新規に発足したグループ業務統括室に各事業部門・子会社の業務手順を集約させ、グループ統一のマニュアル作りに着手した。
こうした対策を経て財務関連のデータ処理や書類の作成などは「6~7割がBPOに移すことが出来た」(坂本副社長)という。
今回の改革は、一見すれば本社が業務手順を統一化して事業部門・子会社への管理を強めているようにも映る。しかし、IHIは昨年、本社の取締役会で取り上げる議題の基準を引き上げて、事業部門・子会社が独自で判断できる権限を広げた。
バックオフィスの業務削減で人的資源に余裕を持たせることで、成長事業に自ら取り組む独立性の強い組織に作り変えようという狙いがある。特集記事のテーマである「縛らず統治するグループ経営」を模索する動きといえる。
日立製作所グループの改革を主導した川村隆名誉相談役は「会社は毎日行けば給料をくれる良い場所だな、なんて思っている社員は一杯いる」と嘆く。いわゆる大企業病に陥らず、有機的に動く組織を作れるか。老舗のグループ企業ほど悩みは深い。IHIも「まだ成長事業を立ち上げた成功例は出てきていない」(坂本副社長)といい、改革の成否が見えてくるのはこれからだ。
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