エマソンはこれまで企業の製造現場やエネルギーなどBtoB分野で圧倒的なシェアを持つブランドを60種類以上抱えていた。それぞれのブランド展開は「プロセスマネジメント」「ネットワークパワー」「インダストリアル・オートメーション」など5部門にぶら下がる各事業会社に委ねられ、全体を親会社である米国本社が統轄する経営形態だった。

 モンザー社長は7000億円規模の事業を売却し、大きく2つの事業領域に整理し直す改革に着手した。ネットワークパワー部門の売却に加え、モーター・ドライブ事業を手放すことも検討している。

 モンザー社長には「事業子会社はなるべく作らない。小さな企業体にした方が環境変化に適合させやすい」との狙いがあった。ただ、機械的に事業会社の数を減らしただけでは、本当の意味での組織の簡素化にはつながらない。複数の事業領域が複雑に絡み合う構図が残る以上、見た目の組織図を簡略できたとしても、組織内の意思決定までは簡素化できないからだ。

 モンザー社長にその点を問うと、「本社直轄のマネジメント層の教育が重要になる」と答えた。

世界で1000人の選ばれし者

 エマソン本社にある人事担当役員の部屋には、約1000人の社員の顔写真とともに、これまでのキャリアが書かれたシートが壁一面に貼り出されている。

 全世界のグループ従業員約13万人のうち、この約1000人は「ハイポテンシャル」と呼ばれるマネジメント層だ。ハイポテンシャルは本社直轄の人材で、モンザー社長ら経営陣が直接研修を行うだけでなく、今後のキャリアパスについても意見を出す。

 彼らが事業部や地域を超えて異動することで、迅速な意思決定や企業文化の浸透が可能になっている。ハイポテンシャル人材は成果の有無などで毎年一定数が入れ替えられる仕組みになっており、厳しい競争を迫られる。

 モンザー社長は次のように強調した。

 「ハイポテンシャル人材の育成には今後、さらに膨大なエネルギーを費やさなければならないだろう。簡素化した組織の中では、難しい判断が伴う意思決定が必要になる。そこでハブになるのは人材だからだ」

 「彼らには将来の成長をどう描くのか、新しい事業構成の中でどのように成功を導き出すのかなどの点について常に考えてもらう。それがエマソンの未来を決めることになる」

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