選び疲れた消費者は店員による的確なおすすめを求めている――。日経ビジネス7月31日号の特集「もう迷わせない! 消費多様化の終わり」で取り上げたように、これが現在の消費の傾向であり、多くの企業が対応を模索している。
消費者に的確な提案をするには、顧客の普段の生活にまで深く入り込み、潜在ニーズをくみ取る必要がある。だが店員は品出しや精算など複数の業務をこなさなければならず、店頭に立つ時間の全てを接客に費やせるわけではない。充実した接客を通じて的確なおすすめを実現するには、どうすればいいか。
この問いに対して、一つの解を見出した企業がある。J・フロントリテイリング傘下でファッションビルを運営するパルコだ。
「お客が来店してから、店頭だけで商品を選んでもらう方式はもう限界。来店前に、お客とのコミュニケーションを最大化する方策が必要だった」
パルコが2015年3月に公開したスマートフォン向けアプリ「ポケットパルコ」。執行役の林直孝氏は同アプリの配信の狙いについて、そう語る。
ポケットパルコの起動画面は、写真SNSのインスタグラムに似ている。画面に並ぶのは四角形のスナップ写真の数々。込み入った商品説明は排し、そのぶん写真を次々とスクロールできる仕様だ。写真をタップすると商品に関する短い「記事」が現れる。パルコに入居する全国約3000のアパレル店の店員がそれぞれ執筆を担当し、気に入った記述にはユーザーが「いいね!」を押す感覚でクリップできる。
パルコは入居テナントから賃料を得る事業モデルで、顧客に商品を販売するのは各アパレル企業だ。パルコは各テナントの営業をサポートするため、スマホ上で接客できるプラットフォームを提供している格好だ。そして実際の店舗での接客力と同様に、店員はアプリ向けに、どんな言葉を書き込むかによって、売れ行きが変わってくるのだ。

店員の主観も交えておすすめ
ポケットパルコが一般的なインターネット通販サイトのアプリと違うのは、店員が執筆するコメントの内容が、商品そのものの説明にとどまらない点だ。
白色のブラウスなら「淡いトーンなのでワイドパンツもフェミニンに着こなせますよ♪」。花柄のあしらわれたスカートなら「一気に華やかになるスカートです。穿き心地も抜群です★」――。商品そのものではなく、商品とあうコーディネート全体を提案する。あるいは店員の主観をふんだんに盛り込み、商品を身にまとって街に出かけたときの気分まで想像させてくれる。
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