日経ビジネスでは7月30日号特集「沈まぬ東京 五輪後『悲観論』からの脱却」で、2020年の東京五輪・パラリンピックのを活用して社会にインパクトをもたらす事業を模索する企業の取り組みや、2020年代の東京に真の競争力をもたらすための提言をまとめた。開催後の反動も予想される中、開催まで2年を切った今こそ、東京の課題と強みを正しく認識し、将来の経済・社会づくりの基盤を整えることが求められている。

 東京の都市力の弱点のひとつ、起業環境の改善を目指した取り組みが加速している。大手町にフィンテック企業を集める三菱地所の「フィノラボ」。起業のハードルを大きく下げる赤坂の「東京開業ワンストップセンター」。官民ともに、新興企業が集積する都市づくりを本格化しつつある。

 東京の都市力を占うデータがある。米監査大手プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、世界主要30都市の競争力を格付けする「世界の都市力比較」ランキング。16年に実施した調査では、東京は、1位のロンドン、2位のシンガポールに大きく差をつけられ、15位と低迷した。評価が低い要因一つが、起業が活発ではないことや会社の設立や納税などに関する諸手続が煩雑であることなどだ。

 これまでにない技術やノウハウを持つ新興企業が世界中から集まり、切磋琢磨しながら、新しい産業が次々に生まれる――。東京が今後さらに、世界から「ヒト、モノ、カネ、情報」が集まる魅力的な街へと発展していくためには、そんなイノベーティブな企業が集積する都市へと進化しなければならない。そのための取り組みが、官民で動き始めている。

大手町にフィンテック企業を集積

 東京駅周辺の大手町・丸の内エリアが牙城の三菱地所は、世界のスタートアップ企業が集積する拠点を作ることで、街全体の価値の向上を狙う。

 16年には電通などと共同で、日本初のフィンテック企業専用のシェアオフィス「フィノラボ」を大手町にオープンした。反響が大きかったため、昨年2月、床面積を2.4倍の約2150平方メートルに拡大。現在50社近くのフィンテック系スタートアップが会員になっており、その約2割を米国や英国、シンガポールや韓国といった外資系企業が占める。世界各地のフィンテック企業を1カ所に集めることで、人や技術の交流を促し、イノベーションを起こすことを狙う。

三菱地所などが運営する、日本初のフィンテック企業専用のシェアオフィス「フィノラボ」(東京・大手町)
三菱地所などが運営する、日本初のフィンテック企業専用のシェアオフィス「フィノラボ」(東京・大手町)

 大手町にスタートアップを集積させる狙いは他にもある。1つは、「大手町ブランド」の刷新だ。三菱地所ソリューション業務企画部の太田清ユニットリーダーは、「大手町には長い歴史を持つ日本を代表する大手企業が集まっている。その一方で、新しいイノベーションが創出されているという印象が薄かった。大手町といえば、世界最先端のビジネスが生まれる場所。世界にそう認知してもらえれば、スタートアップが自然と集まるようになり、街全体の価値が飛躍的に高まる」と話す。

 スタートアップが成長すれば、大手町界隈のより大きなビルへ“住み替え”てもらうこともできる。さらに近年は、大手企業が新事業を立ち上げるために、スタートアップと連携するケースが増えており、大手町周辺の既存のテナントにとっても、先進技術を持つ企業が集まってくるメリットは大きい。

窓口を集約し起業を身近に

 「利点はなによりスピード。一か所に通うだけで素早く開業できるのはとても助かる」

 そう話すのは、中国出身の王豪氏。6月中旬に日本で起業し、健康食品・化粧品の輸出やコンサルティングを行う会社を設立した。

 王氏が開業の際に利用したのが、東京都が赤坂に設置した「東京開業ワンストップセンター」だ。定款認証から税務、保険の手続きまで、会社設立のための窓口が一か所に集まっており、中小企業診断士への相談も可能だ。