IOCワールドワイドパートナーとして、過去の五輪を通じてキャッシュレス化を推進してきたのが、米クレジットカード大手のビザだ。タッチ決済が可能なクレジットカードやデビットカードの普及を進めると同時に、カードというかたちにとらわれない支払い方法を模索している。

 ロンドン五輪では韓国のサムスンと共同で、モバイル端末によるタッチ決済サービスを選手に提供。選手村を含め、ロンドン市内の数千店舗で使用できる環境を整えた。その後もリオ五輪では指輪型、平昌五輪では手袋型やピンバッジ型など、ウェアラブルデバイスを使った支払い技術を実験してきた。

平昌五輪でビザが選手に提供した手袋型の支払いデバイス。販売も行った。

 五輪期間中には会場周辺に多くの人が押し寄せる。混み合う店舗や交通機関で、素早く支払いを済ませられることは魅力的だ。イベント時の楽しい記憶が一緒に残ることで、新しい技術への心理的抵抗が小さくなるという効果も考えられる。五輪を機に、現金・カード以外の様々な支払い手段が、東京でも一気に普及する可能性がある。

 ビザは地方でも取り組みを進める。2015年に京都市と地域活性化包括連携協定を結び、今年4月には「京都国際観光大使」に就任した。

 「地方におけるキャッシュレス化は、観光業を始めとする地域経済の活性化と組み合わせて考えることが必要だ。カード利用者の買い物データなどは、観光地での集客や販売にもお役立ていただけると考えている」とビザ・ワールドワイド・ジャパンの安渕聖司社長は語る。カードが使える環境の整備から一歩進んで、観光地を支援するブレーンの役割も担い始めた。

 グローバル企業が虎視眈々とチャンスを狙う一方、国内では三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友FG、みずほFGが、統一規格でQRコード決済を行える「銀行系デジタルコイン」の普及を目指して連携する。クレジットカードやICカードとは異なり専用の読み取り機が不要であるため、店舗側の導入コストが低いのが利点だ。加盟店手数料についても、クレジットカードより低い水準に抑えることを目指すという。

 訪日客の数が増え続けるなか、各企業は単なる情報発信や利便性の一歩先、より高い満足度の実現を目指してそれぞれの強みを模索する。羽田空港はメディアに、ビザはデバイス開発や観光地づくりに。「おもてなし」の再考を通じ、既存の事業の枠も崩れ始めている。