地方がそのような潜在力を発揮するにあたって、今足りないものは何なのでしょうか。

:日本には「一億総中流」の価値観が根強く、そのため富裕層向けのサービス産業が成熟していない。しかし今後の観光業の効率向上を考えるならば、ラグジュアリー市場を考えることが不可欠だ。

 私が知る世界の富裕層の多くは「日本には我々が行きたいと思う高級ホテルがない」と言っている。1泊50万円以上を払える人は世界中に数多くいるのだから、そのような人々が行きたいと思うような移動や宿泊の価値体系をつくることが肝要だ。ボルドーのワインが1本20万円するのは日本酒より20倍おいしいからではない。そこに日本のサービス産業は気付かないといけない。

工芸、浴場、ホテル……日本中の「上質」を編集する

 そんな中で東京に求められる役割は、日本全体の「ショーケース」となることだ。一例として、国の玄関口である国際空港に伝統工芸の価値をしっかりと伝える場所を作れば、これまで届いていなかった富裕層にも訴求できるようになるだろう。また、風呂文化も世界に誇れるもののひとつだが、いつまでも土着的な露天風呂に執着していないで、建築や設備を現代的に磨き上げ、浴場の素晴らしさを見せる最上級の施設を東京に作れないか。スイスにあるテルメ・ヴァルスという温泉施設には学ぶところが大きいが、いまだ日本にそれを超えるものがないのは残念だ。

 前回の東京五輪の頃に日本の建築・美術の粋を集めてつくったホテルオークラの本館を取り壊してしまったことはつくづく残念だ。海外から来た人に「これが日本だ」と自信を持って薦められるホテルが今ではなくなってしまった。

 東京のもうひとつの役割は、日本の多様な文化に富裕層がアクセスするための「ハブ」となることだ。せとうちホールディングスは2泊3日で40万~100万円の客船「guntu」(ガンツウ)を運航しはじめた。石垣やニセコには着々と外資による超高級ホテルが計画されている。こういった地方の動きをとりまとめて編集し、上質な旅を設計・提供できる人が東京にいてもいい。日本中から最良のものを集める編集力と、驕らず世界に耳をそばだてることのできる謙虚さが東京の強みだ。

せとうちホールディングスが運航する高級客船「guntu」(ガンツウ)。建築家の堀部安嗣氏がデザインを担当した。(写真:PIXTA)