日経ビジネスでは7月30日号特集「沈まぬ東京 五輪後『悲観論』からの脱却」で、2020年の東京五輪・パラリンピックの開催後の反動も予想される中、五輪という機会を活用して社会にインパクトをもたらす事業を模索する企業の取り組みや、2020年代の東京に真の競争力をもたらすための提言をまとめた。開催まで2年を切った今こそ、東京の課題と強みを正しく認識し、将来の経済・社会づくりの基盤を整えることが求められている。
一方で東京から地方に目を向ければ、その魅力が十分に伝わっていない文化や自然が数多く残っている。過疎化や経済基盤の低下に直面する地方が活力を取り戻すためには、どのような視点が必要なのだろうか。長野五輪の開・閉会式プログラムや愛知万博の公式ポスターなど、日本の文化と精神性を現代的に昇華した仕事で世界的に知られるデザイナー・原研哉氏に、海外富裕層をも唸らせる価値の作り方を尋ねた。
五輪後の東京や日本の将来を考えるにあたって、2020年代をどのように見ればいいのでしょうか。
原研哉氏(以下、原):前回の東京五輪の頃は、海外旅行をするのは世界中でも年間1億人をやや超える程度だった。一方、2030年には年間18億人から20億人が海外旅行をするといわれている。21世紀はまさに「遊動の時代」だ。

グローバル化すればするほど逆にローカルな固有文化の価値への注目が高まり、移動しながら文化の多様性を享受することが豊かさになっていくだろう。日本はそんな価値の宝庫だ。
たとえば、日本各地にある半島の先端は今でこそ僻地だが、海上交通の時代はいわば文化のアンテナだった。特色のある自然環境や産品には、目の肥えた世界の富裕層でも満足させられる潜在力がある。日本のハイテクノロジーをもってすれば、高級ホテルはこうした立地でも十分に成立しうる。現地までの交通は問題だが、たとえば海上自衛隊も採用している水陸両用飛行艇を使えば、空港の大規模整備なしで小さな漁港が空港になり得る。
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