大きな政府で再配分を

アベノミクスでいう「第3の矢」、つまり成長戦略や構造改革の具体性がないという批判の声もあります。

榊原:成長戦略といっても非常に不透明ですよね。構造改革も、日本経済にはもうそれほど強い規制は残っていないんですよ。細かい規制はあるでしょうけど、それを除いたから効果がある、ということを実証している人はいません。

 だからこそ「成熟戦略」が必要だと言っています。1%前後の成長を前提に、どういう政策を取るのか考えるべきです。1990年代に入ってからはずっと1%成長でしょう。それを3~4%にしようなんて無理です。先進国はみんな低成長、低インフレの時代に入ってきています。

 今の低金利というのは世界的な現象で、16世紀ごろにもありました。でも、その時は技術革新や新たなフロンティアを開拓することで復活できましたが、今度はそれがないんです。

 資本主義が新しいフロンティアを見つけてどんどん伸びていくという時代はもう終わったということですよね。そうなってくると、ゼロ成長の時代にどう適合するかが重要になってきます。

 経済政策も配分の重要性が増します。欧州は既にそうですが、例えば消費税を20%取って、それを原資に再配分を進めるなどの施策が考えられます。日本もそういう局面に次第に入ってきているんだと思いますね。

EU分解の歯車が回り始めた

統合通貨ユーロの存在が欧州に亀裂を生んだという見方もあります。

榊原:ユーロが誕生したことで欧州内の格差が非常に広がりました。例えば、ギリシャが旧通貨のドラクマで、ドイツがマルクであれば、一方が切り下がって、もう一方は切り上がることで調整できたわけです。

 同じ通貨だとドイツの1人勝ちになってしまう。ただ、ユーロを解体するわけにはいきません。欧州統合の象徴ですから。理論的には、解決の道は財政統合しかない。しかし、違う国だからそれは非常に難しいと思います。ギリシャなど南ヨーロッパの国々には抵抗があるし、ドイツだって、逆にギリシャの面倒を見るのは嫌でしょう。

 解はないが、元に戻るわけにいかない。そういう意味で、非常に欧州は難しい状況にあります。中途半端な統合でにっちもさっちもいかなくなったが、それでも問題を抱えたまま中長期的に走っていかざるを得ないわけです。

今回の離脱問題を機に、EUはどうなっていくのでしょうか。また、米大統領選でドナルド・トランプ氏が共和党の候補に選出されるなど、自国第一主義を掲げる動きが広がっているように感じます。

榊原:世界的なトランプ現象でしょうね。つまり、トランプ氏は米国第一主義で、世界にどう貢献するかという発想が全くない。分離というか、分裂の時代になってきているということでしょう。欧州が第2次世界大戦後、70年近くずっと続けてきた統合の流れが逆転し始め、それが世界的な傾向になる可能性があるわけですね。

 直ちにではないにしても、緩やかにEUが分解に向かう可能性があります。スピードは分かりませんが、少なくとも歯車はそっちの方向に回り始めたということです。